札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年6月15日水曜日

6月の三水会


6月15日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は18名。大門伸吾医師が司会進行。初期研修医:3名。後期研修医:6名。他:9名(見学の医学生1名)。

研修医から振り返り7題。

ある研修医。83歳の男性。労作時左前胸部圧迫痛で精査入院。既往歴;腰椎ヘルニア、アルコール依存症。左腎臓摘出術。喫煙20本/日。やせ型。心雑音なし。検査データ:HbA1c:8.0%,FPG>300mg/dl。その他はほぼ正常。
病歴を掘り下げてみると;指差す、刺されるような痛み。体位変換で増悪。持続は数分間。嘔気が強い。GIF;胃角に巨大潰瘍と粘膜下腫瘍。インスリン導入。尿路感染症を併発。
胸痛をきたす消化器疾患について調べた。
今後、どのように経過をみてゆくかが重要であるという意見が出された。このような患者に対してどうするか、多職種カンファランスが必要ではないか。家族に意向はどうか。どのような病歴なら心疾患を否定していいのか報告して欲しかった。
クリニカル・パール:「胸痛についても消化器疾患を鑑別に挙げなければならない。」

ある研修医のSEA。68歳女性。ポリオ、肺結核の既往があり側湾症。喫煙もあり、COPDと診断されている。HOT導入中。自覚症状はない。BIPAPマスクをつけることによる不快感を訴える。円滑なコミュニケーションがとれない。装着を望まず退院となった。
振り返り:患者自身の意思がわからず、医療者と配偶者だけで治療方針を決めてしまった。長期化した入院期間を早く打ちきりたかった。実は本人の意思を引き出せたのではないか。
時間をかけて対応してゆくしかないのではないか。受け入れができるようになるのに時間がかかる。医師自身が一度BIPAPマスクをつけてみるのもよいのではないか。
クリニカル・パール:「患者の唯一の味方として他の医療者を説得する必要もあった。日ごろから良好なコミュニケーションを心掛ける必要がある。」

ある研修医。春がなくて夏が来た。病院に冷房がない。17歳女性。右下腿に痛み(虫さされ?)。刺し口あり。虫さされと診断し、ミノマイシンを処方した。4日後も変化なし。皮膚科のアトラスを調べる。3日後に症状消失。
「ブヨかな?」「山に行くとこんなことよく起こるよ」「冷やすことが一番」
クリニカル・パール:皮膚疾患に出会ったら写真を撮ろう」

1歳の女児。発熱、咽頭痛。39度台の発熱が続く。川崎病、膠原病が頭を過る。WBC;3500, CRP;1.8。インフルエンザ陰性。関節痛はなし。1週間後に再受診。小児科で抗菌薬を処方され、解熱した。親が心配する。熱よりの患児の元気度が大事。
クリニカル・パール:「繰り返しの受診を促す。紹介するタイミングを間違わない」

40歳女性。項に湿疹。獣医に「牛の湿疹が移った」と言われた。google調べた結果、牛の白癬菌(Trichophyton)が人に感染するらしい。皮膚科アトラスをみると「たむし」そのものであった。
クリニカル・パール:「googleは役立つ。特殊な疾患名がでやすいので注意。知っているものしか見えないので、知っているものを増やすしかない。」

ある初期研修医。夕刻、救急車が来ますと連絡を受ける。78歳男性が意識障害で搬送。JCS2ケタ。発熱。血圧:180/110mmHg,PR;123/分。呼びかけに眼を開ける。血糖値200.血ガス:異常なし。麻痺なし。事務員から特定疾患「多発性動脈炎」で大学病院にかかっているという情報が入る。ステロイドはしっかり内服している。上級医が到着し、まず検査をして医大に送るかどうか決めると家人に説明。CT,MRIは異常なし。ここまで2時間かかる。結局、21時30分に医大に搬送となった。
化膿性髄膜炎であっただろうか。
クリニカル・パール:「患者さんに救急搬送システムを知ってもらう必要がある。意識障害の老人に化膿性髄膜炎を疑ったら、30分以内に治療する。ステロイド、抗菌薬、髄液穿刺の順に」

ある研修医。89歳女性。肺がんを宣告されているが未治療。歩行ができなくなった。反応が鈍くなった。Sa2;90%。CRP:10。胸部XP;変化なし。抗菌薬治療を開始。発熱が続く。血培養、尿培養は陰性。
患者家族への説明の難しさを痛感した。自分の中で診断に自信がなかった。説明した部屋が汚かった。「先生にお任せします」と家族は言っていたが、納得していなかった。PMRとして説明した。「胸のつかえがとれました」と返事あり。
クリニカル・パール:「患者の話を聴くこと、環境を整えて、相手の感情にも配慮することが大事である。」

ある初期研修医のSEA。列車脱線事故の患者への対応。夜中に電話連絡を受ける。救急専門の上級医の仕事ぶりに圧倒された。検査・治療の補助ができた。手技・診察面では戦力不足であった。来年に向けて、一人の医師としての気概をもつべきであると思った。

ある研修医のSEA。84歳女性。腹部膨満感、食欲不振。大腸線腫の切除を拒否。家族と疎遠。娘は関東に居住。腹部膨張、下腿浮腫。貧血、CEA125:504、CT;胸水、腹部に腹水。腺がん細胞あり。卵巣がんによるがん性腹膜炎と考えられた。化学療法をするか。するとしたらどこでするか。癌の告知をすべきかどうか。結局、本人と家族に癌を告知し、癌治療または緩和治療という2つの選択肢を示した。予後については明確にしなかった。緩和治療を選択ししばらく外泊となった。相手が病状についてどう思っているか引き出すことも重要である。
クリニカル・パール:「末期がん患者への告知、残りの人生をどこでどのように過ごすか決めることは難しい。結果がでる前に患者に告知についての意思を確認することが重要である。」

今回は、18名も参加者があり、熱気がムンムンとした熱い雰囲気であった。(山本和利)