札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年2月23日火曜日

宮崎大学医学部で地域医療の講演




スタッフの夏目です。
2月17日水曜日、私の母校(旧宮崎医科大学)の総合講義と地域医療セミナーで講義をさせていただきました。

総合講義では「地域医療と国際協力」というテーマで、私の経験を交えて国際協力と地域医療の共通点を中心に話をしました。キーワードは”異文化体験”。国の間には文化の違いがあるということはみな想定していますが、日本国内にもその地域、病院、職種間で様々な文化の違いがあるのですが、日本人はみな同じだろうという、無意識の前提に立っているために様々な軋轢が生じることがあります。また、一般に大学病院では患者さんが病院の文化にあわせて行動しますが、地域では医師が地域の文化の中に入り込むことになります。前者は階層的、構造的な文化、後者は協力的、協調的な文化といえます。このような違いがあるのだ、ということを学ぶことも、楽しく地域医療を行うために必要なのではないか、と提案してきました。

セミナーでは「地域医療崩壊の現状とその診断、処方箋について考える」ということで行いました。北海道で起きている医療の崩壊の現実と想定される原因を分析、提示して対策を考えてみました。崩壊の現実は、差しさわりがあるのでここでは言及しませんが・・・

<研修義務化と医局講座制の弱体化>
原因は複合的なのですが、一つは医師を派遣していた医局講座制度の弱体化に伴う研修医のフリーエージェント化。これらは研修義務化の影響なのですが、義務化の理念がわるいのではなく、医局講座制度の代替システムがなかったために起きたのだと考えられます。ここは分けて考えないといけないところだと思います。地方やへき地では医療機関はインフラのひとつとしての役割を担います。であれば、教師や警官のようにどんな田舎でも、離島でも、子供や人がいるかぎり医療もあるべきものだとおもいます。だとすれば、なんらかのシステムで医師も派遣されるべきだと考えます。では、どのようなシステムで行うのか。これは、私には具体策はありませんが、厚生労働省が行うことではなく、私たち自らシステムをつくり、行うべきものだと思います。もし行政の強制力により行われるようなことになれば、医師のプロフェッションとしての立場は失われてゆくでしょう。

<地域で求められる医療と専門性のミスマッチング>
いま崩壊が進んでいるのは地域の中核病院で、そこで求められる専門性は、様々な疾患に対応する能力とシステムの上にサブスペシャリティーを有することが求めら得ると思われますが、能力というより専門以外は診ない、という文化が存在している医療施設もありました。このような施設では、糖尿病、高血圧、腰痛、慢性胃炎の患者さんは一日かけて4人の医師を回り、患者も大変、医者も忙しくなり、でも診療報酬は一人ぶんしか請求できない、忙しくなりかつ経営に結びつかないという現実があります。

<医療機関へのフリーアクセス>
ほかに医療機関、診療科へのフリーアクセスにも大きな問題があるように思います。頭痛でいきなり脳外科、下痢で消化器科、血圧で循環器科、風邪で大学病院を受診される方もけっこういます。各々の医療機関、科には本来各々の役割があるはずなのですが、日本ではなんでもあり、になってしまっています。質のよい医療を提供するには、資源を有効につかう必要があります。医師をいくら増やしたところで、無限の資源を前提とした資本経済のように医療を消費するならば、いつまでたっても現状はかわらないでしょう。


このような話をしてきました。地域の医療機関の崩壊は、その地域、施設によって様々で、私が見聞きしたことも一つの側面にすぎません。多方面から考えなければいけないのでしょうね。

このような機会を与えてくださった宮崎大学医学部 医学教育改革推進センターの林 克裕先生、ありがとうございました。