札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年2月22日月曜日

ピロリ菌をめぐる新しい話題

220日、北海道総合内科専門医グループでHelicobactar pyroliHP)感染に関するシンポジウムを内科地方会学術で企画した(当教室は事務局を担っている)。まず札幌医大生化学講座の豊田実先生から「DNAメチル化を指標とした胃癌発症および再発リスク予測」という講義をしていただいた。HP感染により胃粘膜細胞はメチル化しやすくなる(癌遺伝子抑制の不活化)。メチル化細胞の比率が高いほど癌化しやすい。メチル化が25%以上の患者さんの場合、癌化のオッズ比26であると。メチル化細胞の比率が高い患者さんの場合、厳重な内視鏡による経過観察が重要である。

次に旭川医大消化器・血液腫瘍内科学盛一健太郎先生から「日本人のバレット粘膜におけるHP感染との関連の検討」の講義。バレット粘膜(食道粘膜の上皮化)は日本人では3cm未満が多い。バレット粘膜→腸上皮化生→癌化。食事の欧米化でバレット食道癌が増加している。36カ月での経過観察では腸上皮化生発症は除菌群:26%, 非除菌群13%。一方で差がないという報告もある。バレット粘膜群では対照群に比較しゲノムの不安定性、メチル化率が高い。

北海道大学第三内科加藤元嗣先生から「ヘリコバクター学会ガイドライン2009について」。HPはグラム陰性桿菌でウレアーゼを産生する。5歳以内に胃口感染をし、主に母子感染である。成人の初感染はAGMLとなるが多くは自然消失する(症状が激しいのは排除しようとするからである)。5歳の時の感染率がその年齢層の感染率としてそのまま維持される。慢性胃炎は3タイプをとり、幽門部胃炎は十二指腸潰瘍になるが癌化しにくい。前底部胃炎は胃癌になりやすい。全体部胃炎は未分化癌が多い。除菌で二次発生胃癌の発生率が有意に低下し、感染ルートを抑制し将来の医療費抑制につながるのでHP感染者は全員が治療対象となった。また逆流性食道炎があるからといって除菌を回避する必要はない。現在、胃癌が高齢者で増加している。保険診療上は内視鏡かバリウムで潰瘍を確認しないと、ウレア検査や除菌治療はできないが、消化性潰瘍の場合、除菌すると年間再発予防を1.9%低下させる。HPが原因の一つと考えられているITP患者の半数が除菌に反応する。治療薬の一つであるクラリスロマイシンに対してHP29%が耐性になっている。

認定更新の2単位も取得出来る上に、一般診療を行う上で非常に役立つシンポジウムであった。今後もこのような企画を続けていきたい。

(山本和利)