札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年2月9日火曜日

医療コミュニケーションとナラティブ・アプローチ

今週から臨床入門の集中講義・実習が始まった。それと同時並行的にNarrative-Based MedicineNBM)の講義・実習も開始。私が「NBMの導入」の講義を1時間した後、富山大学の斎藤清二教授から2時間講義をしていただいた。

導入で医療崩壊の話が出され、その防止のためには信頼の構築、信頼の保証が重要であることが強調された。現在の医療は、患者からの信頼が得られていないからこそ、信頼されることの重要性を強調するというパラドックスに陥っているそうだ。その例として「患者さんはなぜ安心できないのか?」について、事例をあげて講義が進んでゆく。薬の副作用についての不安を持つ患者に対して、安心を与えようとするやり方(保証編)。次は説明編。まれな副作用を説明してゆくと患者さんの不安は募ってゆく。巷に溢れるこのやり方では信頼は得られない。どうしたらよいのか。答えは対話である。患者は副作用のあるかないかを知りたいのではない。心配について相手に直接訊いてみることが大事なのだ(無知の姿勢)。それを開かれた質問で訊くこと。不安にはきっかけがある。その相手の不安を正当化してあげる(「そうだよね」と)。共通基盤を持つようにすること。患者が一見医師を困らせるように思えるのは、葛藤があるからだ。患者の質問にはオウム返しで答えるのがよい。「はい、その通りです」と相手が答えるような質問の仕方をするとよいそうだ。導入部分だけでなるほどと納得させられてしまった私である。患者満足度を高める対話は、「抱えてから揺すぶる」(こうすると赤ん坊は笑う)。揺すってから抱えると赤ん坊は泣き出す(表を参照)。医師には抱える技法だけではなく、揺すぶる技法も求められる。だから医師は大変なのだな。

患者満足度を高める対話の構造

・抱える技法

           非言語的メッセージ

           傾聴技法

           共感表現

・揺すぶる技法

           保証

           説明

           自己開示

抱えてから揺すぶる。(神田橋先生)

本論に入った。NBMという言葉は1998年にBMJで提唱された。基本は対話の医療である。全人的医療を提唱するムーブメントの流れを汲む。EBMの過剰な科学性を補完する。学際的な専門領域との広範な交流を特徴とする。ナタティブとは、意味づけつつ語ること。その意味付けは多様である。次の4つからなっている。背景(context)、困難(trouble)、人物(character)、時間配列(chronology)。

医療におけるナラティブは、私たちに反省的思考(reflective thinking)を促す。そして病い(illness)を患者の人生という大きな物語の中で展開する一つの物語であるとみなし、患者を物語の語り手として尊重する一方で、医療者側にも物語があり、対話を通じて互いの物語を摺り合わせ新たな物語を創り出す。講義はまだまだ続く。・・・。

学生の感想文を読むと何となくではあるが「ナラティブとは何か」が伝わったようだ。今こうして講義内容を文章にしているが、ライブで感じた感動がうまく表現できないのがもどかしい。ライブが一番。興味を持った方は是非、齋藤先生の著書(『ナラティブ・ベイスト・メディスンの実践』)や翻訳本(『ナラティブ・ベイスト・メディスン』)をお読み下さい!

(山本和利)