札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年2月5日金曜日

地域医療の教育

現在、全国の県庁所在地に医師の半数以上が集中し,中小都市や過疎地では医師数の不足が深刻化していることから、地域の現場への医師の定着を目指して、「地域医療」の教育が注目されている。その試みの一つとして医学部入学早期から地域医療に触れる試みが全国の大学で多数なされている。卒後の地域医療研修期間は1、2ヶ月となっている。現在、その地域の現場で研修医がどのようなことを学んでいるのだろうか。

医師の人数が不足する分、一人の研修医が学ぶ内容は多い。病院内にあっては医療チームの一員として指導医と相談しながら入院患者を直接診る機会が増える。基礎疾患を持ち発熱や腹痛、胸痛を愁訴に入院してくる高齢の患者の担当医として活躍することになる。日中や夜間の救急車への初期対応から後方病院への搬送まで重要な役割を担っている。専門領域だけを担当していたのでは病院全体の機能が麻痺することを、身をもって知るようになる。外来で高血圧や糖尿病といった慢性疾患と咳や痛みなどの愁訴がいかに多いか驚く。肩関節痛を訴える基礎疾患のある患者に、医師が肩関節注射をした後、インフルエンザ予防接種や肺炎球菌ワクチンを勧めたり、高齢者の転倒を懸念して家族に防止策を提案したりしているのを目の当たりにして、日常診療における予防活動の重要性を知るようになる。院外では在宅訪問診療にも指導医・コメディカル・スタッフに同行し、病院内では知ることのできない患者さんの環境や家族に接し、これまでの医療情報とすり合わせて考えながら対応することを学んでいる。このように「地域で学ぶ」ことにより、外来患者のケアを経験し、入院診療だけでは診る機会の少ない患者群を診察し、不確実さのマネージメントをしながら病歴をとって身体診察をし、包括的・継続的ケアを経験できるのである。

しかしながら、このような内容を独り立ちして実践するには1,2ヶ月という期間は短すぎる。この領域の専門資格である家庭医専門医になるためには、認定されたプログラムのもとで3年間の研修が科されている。開業医と家庭医専門医とだけで現状の地域の医師不足を解消することは難しい。そこで私は初期研修終了者全員が1年間地域医療に従事するという案を提案したい。赴任した研修医の10%が地域医療の魅力を感じて、家庭医・総合医を目指してもらえば地域医療も再生されるのではないだろうか。日本は四季の変化が多彩で、自然が豊かである。私にとって若い時期に山間地や海辺で緩やかに時間が流れる中で木々に囲まれて、潮騒を聞きながら住民・患者さんと過ごしたことは貴重で経験であった。いくつかの大学に招かれて行った「地域医療」の授業で、「医師たるものは少なからぬ時間を公共のために尽くす」という原点をアピールし、かつ地域医療の魅力を話すと、1年単位の期間であれば地域医療現場を経験したいという学生が大部分であった。「分け隔てのない公平な提案」であれば受け入れは可能ではないだろうか。私は若者の感性に期待したい。(この一部が日本医事新報の2010116日号に掲載された)

(山本和利)