札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年3月11日月曜日

臨床推論の講義

3月第二週は医学部4年生への臨床推論の講義が続きます。
私が担当したのは「腹痛」「頭痛」「意識障害」の3つ。
3月4日
臨床推論「腹痛〜医師アタマシミュレーション」
昨年もやったテーマで好評だったもので、患者の診察をたどりながら、学生に
Pivotal  Point(診察診断の分岐点)を課題として与えて行く方式を取りまし
た。講義においてはポイントとして
1)第一印象をどのように医学的情報に変換していくか、
2)最初の声かけで患者さんの警戒感を解く方法、患者さん自身に整理された
3)病歴を話させる深層心理に基づいた質問のしかた
4)解剖と病態生理、病歴からを捉えていくか。
5)身体診察のコツ
6)検査特性を考えた検査の選択
7)疾患の疫学と最終診断
上記のような事を中心にレクチャーをしました。学生さんからのフィードバ
ックでは概ね好意的でしたが、「時間が短すぎで、もっと時間を掛けて」とい
う意見もありましたが、講義時間と同じ90分というのは、医師が救急外来を受
診した患者さんを帰宅させるか、精査・経過観察で外来に留めるか、入院させ
るかの判断のリミットの時間で実際の臨床は常に時間と状況判断の連続なので
す。
ちなみに患者さんは日曜日夜の国民的家族アニメの30年後の女性の設定でし
た。
3月7日
臨床推論「危険な頭痛」
2つ目は臨床で出会う危険な頭痛です。
以前より学生さんから「臨床診断学になぜ疫学的手法や統計学的計算が必要な
のか分からないし、ピンと来ません。」と言う声が寄せられていた事もあり、
ちょっと一工夫しました。
1)国民的冒険ゲームの主人公と若い医師の成長物語
2)勇者の能力と武器☓医師の力量と検査特性=ベイツの定理との相似性
3)見逃しやすいクモ膜下出血の特徴と診断方法
4)危険な頭痛を見逃さないために
1 地道に病歴を取り、どのような検査を選択するか
2 専門医や同僚と協力し、見逃しを防ぐこと。
クモ膜下出血と急性心筋梗塞など地雷疾患には様々なものがありますが、主な
ものは「典型的疾患が非典型症状」で来ることも多いのです。少なくとも帰宅
させるなど最終決断をする前に複数の医師と協力して思い込みバイアスや見逃
しリスクを分散する必要があります。その為に前回までのカルテや医療プレゼ
ンテーションの技術を活用でき、周囲と良好なコミュニケーションのとれる医
師になることが大切だと伝えました。
3月8日
臨床推論「意識障害」
意識障害の診療の難しさは、病歴問診による情報が非常に少なく、目撃者がい
ないと発症からの経過も分からない。しかし、鑑別疾患は山のようにあり、さ
らに意識障害は緊急性の高い疾患が多く含まれる事です。
今までの臨床推論講義のように、じっくりと問診と身体診察をし、鑑別疾患を
たくさん考えて診断するという時間をかけたプロセスが使いにくく、現場では
正に走りながら考えなければ行けません。よって意識障害の患者では最高難度
の臨床推論と対応能力が必要です。
このレクチャーのポイントは
1)意識の解剖と病態生理の関係
2)救急隊の第一報から積極的に指示を出し、出来る限り患者周囲の情報を集
める。その具体例。
3)バイタルサインと身体診察からのより深い病態の洞察
4)いわゆる外傷プロトコールに加えFluid infusion とGlucoseも加えた
  対処のABCDEFG
5)JCSとGCSの意味と使い分け、実践
6)意識障害のレベルの動揺性にどう対処するのか
7)AIUEOTIPSを鑑別に利用する
意識障害の診療は、非常に多くの疾患で最終的に起こり得る上に、その状態で
救急車で来ます。その上最初に述べたように初期情報が非常に限定された状態
からスタートするので、医師何年目になっても難しいと感じます。しかし、だ
からこそ限られた情報源からどのように判断する手がかりを得るかが大切にな
り、そこで得られる最大の情報源はやはり身体診察としつこいくらいの病歴確
認、患者周囲の生活情報の把握になります。そして、救命を最優先したプロト
コールを徹底して体に叩きこむことに尽きると思います。
今回の講義が今年度の、そして札幌医科大学地域医療総合医学講座助教として
の最後の講義になりました。
春より道東の町立厚岸病院で勤務する事になりました。今年教えた学生さんの
何人かは地域医療実習で来てくれると思います。現場では地域医療の実際を見
せながら地域での生活の魅力や楽しみ方も是非教えてみたいと思います。(稲熊良仁助教)