札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年3月18日月曜日

プロフェッショナリスム

318日、札幌医大の4年生を対象に医学概論Vのプロフェッショナリスムの講義・WSが始まった。東京医療センターの尾藤誠司氏に導入として3時間の講義・WSをしていただいた。

まず、ご自分の経歴を披露。1990年岐阜大学卒業。東京医療センターの総合内科はベッドが140床であり、マッチング率は全国でもトップとのこと。初期研修医60名(全寮制)。東京医療センターの基本理念が大好きとのこと。それは「東京医療センターは、患者の皆さまとともに健康を考える医療を実践します。」というものである。


さあ、12班に分かれて、グループ討議が開始された。以下にその内容を示そう。

WS1.「プロフェッショナルと聞いて思い浮かぶイメージは?」「人は?」「どんなところが?」

学生の回答例:NHKのプロフェッショナル、イチロー、ゴルゴ13、理由はひとつのことに没頭できる、突き詰めている、から。

次は「社会から信頼を必要とされる仕事」という視点から考えるという課題である。

WS2.「そのような職種にどんなものがあるか?」「共通する特徴は?」

学生の回答例:公務員、消防士、警察官、弁護士、政治家、教師。ルールに基づいて誰かのために働く。命に関わる、助ける。公の人のために働く。

「プロフェッショナルに必要な要件」

まとめると、技術と意識。特別な権利と特別な義務が伴う職種である。

WS3.「医師」「ソムリエ」「お笑い芸人」でどこが違うか?

学生の回答例:・・・。医師はマイナスをゼロに持ってゆく。医師になるのは大変だが、生き残りやすい(国家資格)。医師には「特権と責任」が伴う。医師は人を傷つける道具を使いながら、人を助ける職業である。医師集団に自浄作用が必要である。お笑い芸人はなるのは簡単だが、生き残るのは大変。

休憩後、後半は医療について。

WS4.「こんな医師にはかかりたくない」という質問

学生の回答例:話を聴いてくれない、怒る医師、不都合を隠蔽する医師。技術のない医師。勉強していない下手くそな医師、口の悪い(言葉に無頓着な)医師、患者の訴えを聞かない医師、病院のための金儲け主義の医師、等。

WS5.「こんな医師にかかりたい」

学生の回答例:技術が優れた医師。やさしい医師。誠意のある態度をとる医師。

 ここで「ワンピース」の一場面(弟子が師匠に必死で探してきた薬が毒であったが、師匠はそれを承知で内服して死んでしまう)を引用。Dr.クレハの「医師は優しいだけではつとまらない」。(医師に必要な4本柱とは何か?「技術的卓越」、「人間性」、「説明責任」、「利他性」である。医師としての10の責務とは何か?かいつまんで話すと「医師の努力義務」と「患者の利益追求」である。

患者とどう向き合うか?

2000年までの「理想の医師像」とは中世の騎士像ではないか。弱い住民を守るために鎧に身を固めて戦う。しかしながら、「パターナリズム(保護者)」から「説明責任(専門技術者)」へ移行している。パターナリズムの例として「赤ひげ」という映画を紹介。患者のためになりたいという親心を赤ひげはパターナリズムで行っている。医療は、家中の栗を拾ってゆくような行為である。「患者のための医療」と「患者の立場に立った医療」にゆらぎがある。パターナリズムは、親心と思って自分の価値を押しつける。それに対する不満が高まったため、パターナリズムは減ったが、一方で、医療者が自分の専門性に基づいた意見を述べなくなり、プロフェッショナリズムの低下を招いている。

WS6「医学的に正しいことと、患者にとってよいことは、同一であるか」

学生の意見:必ずしも同一ではない。「医療専門職とタバコ」についてはどうか?元気で長生きだけが唯一の価値観なのか。首輪を外すか外さないかで悩む「首長族の娘」の話。家族・社会が正しいのか、本人が正しいのか。

「正義の味方」と「悪」の特徴を列挙。正義の味方ほど、一人で確信に満ちた信念で頑なに闘おうとする。「自分の守ろうとする人にとって最良は何か」が大切。医療者は専門家でなければならない。一方で患者にとっては素人なので、患者に教えてもらう(無知の姿勢)ことが大切。

最後に「もはヒポ」プロジェクトを紹介。(“もはやヒポクラテスではいられない”21世紀 新医師宣言プロジェクト)

正義を背負っている自分に疑問を抱いて、企画したそうだ。総選挙で決定した「私の新医師宣言」を紹介した(ブログを参照)。

最後に学生へのメッセージ:「ごめんなさい」「ありがとう」といえない自分になってください。患者を支配しようとする自分から脱却しよう。「助ける」ことと共に「助けられる」ことが重要である。

勧めたい毎日の習慣。

「さっきの私どうだった?」「あしたはこうしてみよう」「ちょっと助けて欲しい」「ありがとう、ごめんね」「服脱いじゃう」「あなたのこと、わからない」と言えること。

臨床実習に行ってよい医師に出会ったら、どこに感動したか1日考えて、その医師に質問してみる。駄目な医師にであったら、どこに失望したか1日考えて、その医師に質問してみる(チョット無理!)。

学生の意見を引き出しながらの授業で、学生はいつの間にか講義に引きこまれて、プロフェッショナリスムについて真剣に考える3時間になったようだ。尾藤先生、ありがとうございました。(山本和利)