札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年3月28日木曜日

臨床推論 総論


 
医学部4年生に対し、臨床推論の講義を行った。

この講義は毎年臨床実習に出る前の医学生に対して行われる。

これまで彼らには、病気についての講義は行われているが、一人の症状を持った患者をどう診断していくかということについては全く知識経験共にないといっていい。

しかし実際の臨床の現場では、病気を診断していくことこそが我々医師の使命であり醍醐味でもある。(もちろん治療も大切であるが、診断あっての治療である)

 

教育の方法論から言うと、一方的に知識の伝達を行う講義という形は、最も効率が悪いやり方である。しかし、だからと言って、少人数制のPBLのような形式をとれるほどの教員側の人的余裕は当講座にはない。

 

そこで、少しでも臨場感を持って取り組んでもらうため、講義内で学生をランダムに指名することにし、指名された学生は「何か」答えなければならないことにした。「わかりません」は認めないことにした。

 

この先わずか3年後には彼らは2年目の研修医となり、おそらく多くの病院では一人で当直を任されることになるであろう。そんな時に、患者の「私の病気は何でしょう?」との問いに「わかりません」では済まされない。そういう臨場感を味わってもらうことにした。

 

この方法は例年行っているやり方であるが、講義当初は面食らった学生も、徐々に発言をするようになる。また、いつ当てられるかわからない緊張感は講義に集中させることができ、この授業では居眠りも内職もほぼ0%である。

 

この講義は総論が1コマと、それに引き続く各論が8コマある。

総論で考え方を教え、各論では典型的な主訴を例題に実際に臨床推論を進めていくやり方を採用している。昨年度は各論が4コマしかなかったが、今年から8コマに増やしたのである。

 

まず、総論の講義。ここで、今までの病気中心の講義では診断することは難しいことを身をもってわかってもらわねばならない。また、診断学がいかに学問的に系統だったものであるかについて興味を持ってもらわないと今後の各論に真剣に取り組んでもらえない。

 

そのために講義の構成は練りに練り、症例は厳選にも厳選を重ねて、準備した。

 

症例は40歳の女性。今朝からの腹痛を主訴に来院。

この時点で鑑別は何か?

 

学生はこの時点でかなり面喰っている。なぜ『腹痛』だけで鑑別ができるのか?と。

診断学では、患者の年齢・性別・主訴と簡単な患者背景から、可能性のある疾患をいかにたくさん鑑別に挙げられるかというところでほとんど勝負が決まる。

ここで正解の疾患にたどり着く必要はないが、可能性のある疾患の中に正解が入っていなければ、おそらく永遠に診断できない。

 

「想起できない疾患は診断できない」

 

このことを繰り返し強調した。

 

その後、病歴と身体診察を行い当初の鑑別疾患の可能性を上げ下げし、絞り込んでいく、最終的にMost Likely  Must Rule Out Others に絞り込むのである。

ここまでで2時間を使い講義を進めた。

 

この患者の病歴は典型的な虫垂炎であるが、身体診察をすると典型的なマックバーニーの圧痛がなく、逆にCVAの叩打痛を認めたというものである。

学生諸君は案の定、当初せっかく虫垂炎をMost Likelyに分類できていたのだが、CVAの叩打痛があり、マックバーニーの圧痛がないということで、あっさりと腎盂腎炎と診断を代えてしまった。こちらの思うつぼである。

 

その後、虫垂炎における病歴の感度・特異度や身体診察の感度・特異度などの話をし、

「そもそも若年者の腹痛における虫垂炎の事前確率は25%もある」

という事実を紹介し、身体診察で可能性を十分に下げきれていないところで鑑別診断から外すことの危険性をしつこく強調した。

 

いかに経過が非典型的でも、

「よくある疾患はよく起きる」のである。

以上をTake Home Messageとした。

 

最後に、今後の各論の講義のさわりを紹介して、総論の講義を終了した。

学生諸君の感想を見ると、興味を持ってもらえたようである。

今後の各論が楽しみである。 (助教 松浦武志)