札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年3月30日火曜日

プロフェッショナリスム

札幌医大の新5年生を対象に医学概論Vのプロフェッショナリスムの講義・WSが始まった。330日、トップバターとして東京医療センターの尾藤誠司氏に3時間の講義・WSをしていただいた。まず、ご自分の経歴を披露。1990年岐阜大学卒業。長崎中央病院に就職。ここは離島赴任医師の再研修システムを行う病院であった。雲仙普賢岳の大災害のとき救急研修中であり、それを契機に良い医師になりたいと目覚め、東京医療センターに就職。途中、佐渡島に赴任したり、ロサンゼルスに留学したりした。ここの総合内科はベッドが100床であり、マッチング率は全国でもトップとのこと。東京医療センターの基本理念が大好きとのこと。それは「東京医療センターは、患者の皆さまとともに健康を考える医療を実践します。」というものである。

さあ、10班に分かれて、グループ討議が開始された。以下にその内容を示そう。

WS1.「プロフェッショナルと聞いて思い浮かぶイメージは?」「人は?」「どんなところが?」という質問に学生の回答例:NHKのプロフェッショナル、イチロー、毎日コツコツと人知れず練習している、継続しているから。

WS2.「入学した時、どんな医師になりたいと思ったか?」「今、どんな医師になりたいか?」「入学時と今では違いますか?」「違ってきたのはなぜですか?」という質問に学生の回答例:漠然と地域医療をしたい→患者中心の医療をしたい。特になし→後輩の指導ができる医師になりたい。あれもなりたいこれになりたい→身の丈の中で考えるようになった。

次は「社会から信頼を必要とされる仕事」という視点から考えるという課題である。

WS3.「そのような職種にどんなものがあるか?」「共通する特徴は?」学生の回答例:公務員、税金を使っている。消防士、人のために働く。警察官、弁護士、ルールに基づいて誰かのために働く。政治家、助ける。公の人のために働く。まとめると、特別な権利と特別な義務が伴う職種である。

WS4.「信頼を保ち続けるために、自分自身にどんなことを課すべきか?」学生の回答例:勉強し続ける、集団のルールを守る、責任を持つ、惰性にならないようにする、等。

WS5.「専門職に課せられるもの」として、「医師はなぜ国家試験による免許が必要なのか?」専門職集団から利益を得る社会に対して、資格継続教育、情報公開、内部監査・処分が必要である。

WS6.「医師」「ソムリエ」「お笑い芸人」でどこが違うか?学生の回答例:・・・。医師は取り返しのつかない害を与える存在になりうる。「特権と責任」が伴う。医師は人を傷つける道具を使いながら、人を助ける職業である。

WS7.「よい医師とはどんな医者(A)か?」「自分がかかりつけにするならどんな医師(B)がよいか?」「生死にかかわる病気で入院したらどんな医師(C)に担当してほしいか?」「A,B,C,は同じか?」という質問に学生の回答例:人としてやさしい、技術が伴う、の両方が必要、等々。

WS8.「こんな医師にはかかりたくない」という質問に学生の回答例:勉強していない下手くそな医師、口の悪い(言葉に無頓着な)医師、患者の訴えを聞かない医師、金儲け主義の医師、心身の健康が保てない医師、等。

ここで先生からミニレクチャーが入る。医師に必要な4本柱とは何か?「技術的卓越」、「人間性」、「説明責任」、「利他性」である。医師としての10の責務とは何か?かいつまんで話すと「医師の努力義務」と「患者の利益追求」である。

WS9.「男性医師の茶髪、ピアスは駄目か?」「医療専門職とタバコ」についてはどうか?より具体的に考えると、「そもそも問題なのか」「駄目だとしたらなぜ駄目か?」「「どんなこと、状況が駄目か?」「許容できる状況はあるのか?」を考えてもらった。

中略(外来に山本和利が呼び出されため)・・・・。

WS10.「入院を拒む重篤な急性膵炎の患者を強制的に入院させるべきかどうか?」うーん、難しい。パターナリズムは、親心と思って自分の価値を押しつける。それに対する不満が高まったため、パターナリズムは減ったが、一方で、医療者が自分の専門性に基づいた意見を述べなくなり、プロフェッショナリズムの低下を招いている。

話は佳境に入ってゆく。専門職にとって「自分は何ができるか?」「自分に何ができるか?」の違いは何か。自分中心か、患者中心か。「患者のための医療」(してあげる)、「患者の立場に立った医療」(させていただく)は理想の医療か?

話は医療界から離れて、磐石であるように見えた「トヨタとJAL」に飛ぶ。何がいけなかったのか?「手作り自転車に、心をこめて」障害者の方に儲からない自転車を作り続ける堀田健一さんの話。首輪を外すか外さないかで悩む「首長族の娘」の話。

最後に学生へのメッセージ:「揺れながら成長する」ことが大事。人の為にとは「偽(にせ)」である。映画の「ディア・ドクター」を推薦。臨床実習にいってよい医師に出会ったら、どこに感動したか1日考えて、その医師に質問してみる。駄目な医師に出会ったら、どこに失望したか1日考えて、その医師に質問してみる(チョット無理か、笑い)。

学生にとって身近なことを取り上げての小グループでの話し合いであったため、「医療のありかた」について真剣に考えた貴重な時間になったと多くの学生が評価していた。マンガの「ワンピース」や「ゴルゴ13」を題材にしていたのが学生に大変好評であった。「ワンピース」を読んでいないのは医師として失格(?)と言われたので、私も娘の蔵書にある「ワンピース」を読んでみようと思った。

尾藤先生、長時間の講義、ありがとうございました。(山本和利)