札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年4月30日火曜日

「プレゼンテーション技法」と「ファシリテーション技法」


418日・25日と医学部1年生に医学史の講義を行った。医学の歴史を通して、先人の功績を学ぶのであるが、この講義にはもう一つ目的がある。

教員が学生に一方的に講義をするのではなく、学生が各テーマについて調べて発表する形式としている。また、発表だけでなく、発表内容についての質疑応答のセッションや討論のセッションも当日の発表ではない学生に担当させて、講義時間そのものすべてを学生に運営させるようにしている。

これまで受験勉強一辺倒で、学習机に向かうことが多かった学生諸君にとって、知識を外に向かってアウトプットするという経験はかなり面食らうようである。

この授業に必要なスキルとして、「プレゼンテーション技法」と「ファシリテーション技法」について、授業の冒頭2コマを使用して紹介することにしている。

まずは、プレゼンテーション技法であるが、細かな技術について解説するのではなく、「プレゼンが上手だ」と感じる人を何人かピックアップしてもらい、その人たちに共通するものは何か?を考えてもらった。

いろいろな意見が出たが、一番大切なこととして、「何かを伝えたい情熱」であると強調した。情熱に満ちたプレゼンテーションは魅力的である。昨年亡くなったスティーブ・ジョブズの例をもとに、いかに情熱が大切かを「情熱を持って」伝えた。

その後、プレゼンに必要な基本的な技術として、「スライドではなく、ストーリーを考える」「70文字以内で魅力的なタイトルをつける」「発表のための原稿は捨てる」「魔法の3のルールを活用する」という4つのルールを、実例をもとに解説して、「まずはこの4つのルールを守ることから始める」と教えた。

講義の最後30分を使用して、「いま最も興味があって、情熱を持って取り組んでいることについて、情熱を持って、3分でプレゼン」を隣同士で行ってもらった。

紙に書いたスライドを工夫し、身振り手振りを交えながら、教室内が騒然となるほどの熱気で発表していた。そう、プレゼンがうまくなるためにはその情熱が大切なのだ。

今後の授業では、歴史上の医学の重要自分について発表してもらうが、まずは発表者がその人物について感動しなければならない。その感動を、情熱をもって他の学生に伝える。基本はそこなのである。

続いて、翌週に、ファシリテーション技術についての講義を行った。案の定、「ファシリテーション」という概念そのものを知らない学生がほとんどであった。その意味するところは?「司会者」や「リーダー」とどこが違うのか?今後の医師人生でどのように必要となっていくのか?など、一つ一つ実例を交えながら説明していった。

一人の患者さんに最良の医療を提供するためには、医師がリーダーとなり、薬剤師・看護師・ソーシャルワーカー・リハビリ技師・福祉関係者・患者家族といった、様々な人々から、様々な意見を「引き出し」て実現可能なプランに「まとめて」、医療チームとして実際に「実行する」ことが必要である。この一連の過程を、関係者の対立を最小限にそしてスムーズに進行・援助する技術がこの「ファシリテーション技術」なのだ。実際医師となれば、この技術があるかないかでは一人の患者さんの人生に大きな差が出てしまうことだろう。医師になるのであれば、必須の技術といえる。しかし、これまでちゃんとした教育があったとは言い難い。学生の間での認知度の低さにもそれは如実に表れているといえよう。

新しい概念を教えるのは難しい。どうしても時間がかかるし、説明は難しく抽象的になりがちだ。午後の昼食後最初の授業ということもあり、どうしても眠気に襲われる。

学生に問いかけたり、発表させたり、レポートを書きながら進めたりとあの手この手で眠らせないように工夫して授業を進める。実は、この眠らせることなく、学生諸君の意見を引き出して、一つのレポートをまとめられるようにしていく過程そのものが「ファシリテーション技術」なのだが、学生諸君は目の前で実践されているファシリテーションを実感しているだろうか?

授業の最後30分を利用して、前回同様実習をしてもらった。

学生を5-6人ほどのグループに分け、「飛行機内でドクターコールがあったとき、医師ではない医学生の皆さんはどう行動するか?」をテーマにファシリテーターを一人指名して、グループとしての行動をまとめてもらった。今回は全員にファシリテーターを経験してもらうことはできなかったが、ファシリテーションしやすい意見の言い方も授業内では教えている。それを駆使してグループ内で活発な議論が行われたようだ。

プレゼンテーションがうまくなるには練習するしかない。

ファシリテーションがうまくなるには経験するしかない。

今後半年かけて進めていく授業の中で少しでも練習・経験してさらなる高みを目指してほしい。(助教 松浦武志)