札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年8月6日月曜日

不安とうつ

東京で開催された第14回身体疾患と不安・抑うつ研究会で聴講した内容を記す。
東邦大学天野雄一氏は「身体症状を主訴とした不安・抑うつ状態を伴う患者への対応について」。

症例:動悸と息切れが主訴の19歳女性。対応:パニック障害、社交不安障害。エシスタプラム10mg。ストレスへの気付きが乏しい。運動や生活指導を中心に対応。

背景要因:社交不安障害→薬物療法。

発症要因:大学入学→不安増強

持続要因:ストレスへの気付きが乏しい→運動。

 症例;下痢が主訴の49歳女性。

背景:職場での異動。チーム内で衝突。仲間はずれ。休職中。現状を受け入れるのを拒否。薬物療法を開始。共感的な対応。自己解決を促したところ、著しい改善が見られた。

心理的サポートを通じて現状を自らの問題として捉えることが解決に繋がった。

 症例:謳気、めまいの67歳男性。検査上異常なし。震災で実家が被災。仕事が激減。トイレ恐怖がある。身体表現性障害。適応障害から鬱へ移行。薬物療法。散歩。受診間隔を短縮し繰り返し保証を与える。多面的な対応が治療に有用である。

 背景要因、発症要因、持続要因の3つに分けて分析する方法を取り入れ、学生指導にも導入しているという。

 岩手医大鈴木順氏は「悲嘆と不安・抑うつを考える‐東日本大震災に関連した症状を通じて‐」。62歳男性。不眠、不安、抑うつ気分。大震災に遭遇。自営業が傾く。高血圧以外、問題なし。怒り、不安が強い。うつ病、逆流性食道炎と診断し、抗うつ薬を処方された。身体症状は改善したが、落ち着きがない。薬物を増量し、徐々に改善。

 「こころのケアセンター」で経過を診ている75歳男性。4人の家族を津波で失った。災害では様々なものが失われる。悲嘆反応、抑うつ状態と診断。傾聴、共感、睡眠薬、漢方薬で対応。

悲嘆については、3つに分類される。1)急性悲嘆、2)統合された悲嘆(回復後に永久に残る悲嘆)、3)複雑な悲嘆(癒されず続く悲嘆)(by M.K. Shear)。遺族のナラティブの尊重、寄り添う、相手に合わせる、等が重要である。完全に治ることが目標ではない。

悲嘆に抗うつ薬を処方すべきか? 悲しい話に涙を流してもよいのか?(患者が苦しんでいるなら処方してよいという意見がフロアから出された)大震災被災後に苦しんでいる人たちの問題に真摯に対応していることがヒシヒシと伝わってくる発表であった。

 埼玉社会保険病院中本智恵美氏は「RA患者における不安・抑うつについて」抑うつを抱える率が高い(43%)。病状の悪化・期間に比例して抑うつスコアが増加する(炎症反応とは相関しない)。

 勝山診療所穂坂路男氏は「プライマリケアにおける身体疾患と不安・抑うつ」。たくさんの臨床研究を行っている。呼吸困難感ヘジアゼパンの効果を検討。検査データは改善しないのに、呼吸困難感は低下した。

抑うつ、活動性、ステロイド投与量がRAに関連。うつ症状のある患者は生命予後が悪化する。若い、ステロイド量が少ない、QOLがよい、抑うつが少ないと生物学的製剤がよく効く。RAにシュグレン症候群が合併すると抑うつになる率が増加する。

 患者がプライマリケア医から専門医までに至る道筋を紹介した。プライマリケア医はどんな訴えでもまずは対応し、こころへの関心を高めることが重要である。患者さんははじめにプライマリケア医を身体症状で受診する(疾病行動)→プライマリケア医がこころの障害を発見する→精神医療サービスに紹介→精神病院へ紹介、となる。

 特別講演は貝谷久宜氏の「不安・抑うつ症候群」

パニック障害に伴ううつ病をどのように治すか? パニック障害は不安障害のなれの果てである。その後からうつが出てくる。これは治りにくい。社交不安障害(劣等感がある)があるとうつになり易い。特に3つ以上の不安障害があるとなりやすい。パニック障害とうつは遺伝的に相関が高い。時間軸を考慮する必要がある。パニック障害は非定型うつ病に似る。これは対人関係における拒絶感への過敏、鉛様麻痺、仮眠、過食が特徴的である。そして幼稚化が起こる。短期間の躁状態がある(2日間以内)。

氏の提唱する「不安・抑うつ発作」を持つ人は、泣く、自己嫌悪、陰性感情、フラッシュバック、自傷行為、過食、遁走、大量服薬、等を起こす。非定型うつ病にはPTSDの診断基準の80%が当てはまる。拒絶過敏症が中核にある。ノルアドレナリン活動の増加が関係している(褐色細胞腫の患者にも「不安・抑うつ発作」が起こった)。治療の一例として、フルボキサミン150-300mg1年間続けた例を提示された。そうすることで新しい人格が出来上がるそうだ。

今回の収穫は、不安やうつの患者を診るときには、背景要因、発症要因、持続要因の3つに分けて考えること、災害で悲嘆にくれる患者さんに対して、完全に治ることを目標にせず、遺族のナラティブの尊重、寄り添う、相手に合わせる、ような対応をすること、パニック障害の中核をなすのは、人関係における拒絶感への過敏である、等を知り得たことである。(山本和利)