札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年8月16日木曜日

8月の三水会

815日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。稲熊良仁助教が司会進行。後期研修医:2名。 初期研修3名。他:7名。

研修医から振り返り4題。

ある初期研修医。外来症例。レッグストレッチャー後に股関節痛で受診、恥坐骨骨折が判明。ワクチン接種後の局所炎症。発熱・意識障害で受診し、肺膿瘍で入院。右上視野がギラギラする女性が受診、片頭痛の可能性が高い。ウインナーをのどに詰まらせた中年旅行者。発熱・腹痛・粘血便で受診し、キャンピロバクター腸炎の診断。自動車事故によるCPAの少年.

13歳女性。腹部全体のチクチク感。抗菌薬で改善せず、経過観察のため入院。便は緩い。浣腸後も痛みの軽快はない。臍部から右下腹部に圧痛。尿・血液検査で異常なし。アルバラド・スコアは2点。XPで大腸ガスが著明。CTでリンパ節が腫脹している。腸間膜リンパ節炎と診断した(虫垂炎より内側が痛む。腸腰筋の内側。自然治癒する。915歳に多い。エルシニアが原因となることが多い)。担当医の反省としては、鑑別診断にあげたものが少なく、機能性の腸障害と診断しかけたことである。この年代の下腹部痛としては虫垂炎、尿路感染症、卵巣捻転、シェンラインヘノッホ紫斑病が多い。コメント:診断能力を高めるにはエコーと身体診察を繰り返すことが重要である。

ある初期研修医。登山中の滑落。発熱を主訴とした歯肉炎。旅行者の腹痛。眼窩付近の虫刺性皮膚炎。

失神で受診した31歳男性。マラソン大会に参加中に失神。体温39度で、酸素6/分投与下でSaO2;92%BP;92/60mmHg、呼吸数:54/m.嘔吐、発汗著明。下肢の痙攣を認めた。熱中症と診断。冷却、補液で対応。ショック・バイタルの補正に成功。しかし、その後一時的に呼びかけに反応しなくなった。血液検査で腎前性腎不全の所見であった。

考察:熱中症は増えている。高温下で激しい運動、体調不良、肥満、脱水、抗コリン薬、抗てんかん薬で誘発しやすい。症状として頻脈、低血圧、脱水、失神、大量発汗、悪心、筋痙攣を起こす。

突然の意識障害の原因は何か?器質的な異常がないか精査すべきかどうか意見が分かれた。

ある研修医。外来症例。トウモロコシによる食餌性イレウス。再発性膵炎。急性アルコール中毒。蚊咬傷による過換気症候群。呼吸困難を主訴に受診しCTで見つかった食道憩室。コメント:主訴と最終診断を一致させる努力をすること。

26歳女性。腹部全体の痛み。妊娠反応は陽性。前医で子宮外妊娠ではないという説明を受けていた。ズキズキとした激痛。イレウスによる入院歴あり。バイタル問題なし。腹部全体に圧痛。WBC;7100, Hb10.1,腹部エコーでダグラス窩に腹水を認めた。Xp撮影は本人が拒否。その後、血圧が低下したため、CT撮影を行った。子宮外妊娠の疑いで緊急手術を行い、子宮外妊娠が判明した。考察:妊婦への被爆を考えたとき、どうすべきか?産婦人科の診療ガイドラインがある。10週までは50mgy では奇形は増えない(骨盤CT1回で79mGy)。必要と判断したら検査を躊躇しない。コメント:経膣エコーをすべきであった。

ある研修医。外来症例。偽痛風。食欲低下で受診した誤嚥性肺炎。副鼻腔炎による頭痛。

72歳代男性。尿閉、PSA高値(1006)で泌尿器科入院。直腸診で硬結を触知。前立腺がんと診断され、遠隔転移の可能性が高いため、ホルモン療法を開始した。抗ホルモン薬と睾丸除去術を施行。遺伝的要因がリスク。直腸診、PSA,経直腸エコーでスクリーニングすることが大切である。

今回は、臨床推論を中心とした話題が多かった。正確な診断の上に治療がなされ、加えて患者背景や患者さんの思いを汲み取る医療実践をすることを願っている。(山本和利)