札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年9月16日日曜日

Narrative-based Medicine

915日、第49回小児アレルギー学会で話をした。

要旨

医師と患者間で診断や治療方法に齟齬があることがしばしば話題になる。医師が,科学的な対応に主眼をおき過ぎて、患者自身,あるいは患者の生きた体験や抱える信念を理解しようとしないこともその一因かもしれない。医師に求められる専門性とは、日進月歩の科学的な専門的知識を持つと同時に、患者の言葉に耳を傾け、病いという試練を可能な限り理解し、患者の語る病いの意味づけを尊重し、目にしたことに心を動かされて患者のために行動できるようになることである。その実践法がNBMである。

NBMという言葉は1998年にBritish Medical Journalで提唱された。基本は対話の医療であり、全人的医療を提唱する流れを汲むものである。学際的な専門領域との広範な交流を特徴とする。

ナラティブとは、「意味付けつつ語る」ということであり、その意味付けは多様である。そして、ナラティブに必要な技能とは、「聴く」、「理解する」、「解釈する」、「患者の苦境をその複雑さとともにまるごと把握する」の4つである。

ナラティブが扱うのは、体験であって主張ではない。ナラティブ能力を磨くことで、医師は、患者に起こった特定の出来事を、患者にとっての重大な状況苦境として捉えることができるようになる。ナラティブの特徴は、聴き手と語り手とが相互に絡み合い勇気づけあいながら、患者に起こった出来事に意味づけしようとすることである。

ここで強調したいのは、NBM実践の方法論・テクニックに精通することによって患者とのコミュニケーションが改善し、良好な人間関係が得られると単純化して考えることは危険である、ということである。その前に、患者の生活の改善に少しでも役に立ちたいという医療姿勢がなければ、慇懃無礼な医療者に陥りかねない。そうならないためには現場で患者と一緒に悩みを共有することをたくさん体験することである。

講演では、一般診療現場で役立つ6つのナラティブ要素(会話、好奇心、循環性、背景、共創、慎重性)を紹介した。

患者の満足度を高める対話をするには、言葉以外の手段で非言語的メッセージを伝え、患者の言葉を傾聴し、共感する必要がある。さらに、一段落したところで、患者の抱える健康問題について十分理解したことを説明して、患者に安心してもらい、ストーリーのすり合わせと新しいナラティブを患者と一緒になって創ってゆき、その成り行きの経過を追って行く。

医療従事者の方々には、患者の価値観・意向を尊重する診療を実践してほしい。(山本和利)