札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年9月16日日曜日

EBMか、NBMか

915日、第49回小児アレルギー学会でPros and Cons: narrative-basedか、evidence-basedか」のnarrative-basedの立場で話をした。

要旨

現代医療は,科学的であることに主眼をおき、患者自身,あるいは患者の生きた体験や抱える信念を軽視する傾向にある。それを打破するために、科学的根拠・医師の経験・患者の意向の3つのバランスをとることを訴えて始まったEBMであるが、近年はその中の科学的根拠ばかりが強調されている。そもそも科学とはどういうものであろうか。それは現象を分業によって知ろうとする立場であり、対象を記号によって表現する。未来のことを前もって知るための関係性を求める。科学者はそれぞれ特定の対象を持っており、ものを外から眺め、理論を事実によって保証するため観察と実験を行い、分析する。そのためには「本来一つであるもの」を要素へ還元する。 特殊なものを一般的なもので理解するのである。対象を自分の支配下におくことを切望する。科学の立場を極端に強調すると、たとえば大規模研究やメタ分析の結果をもって医療の政策的統制を図ることもなすことができる。しかしながら大規模研究でやっと有意差が確認された場合であれば,臨床医の経験では実感できないほどの小さな差であるかもしれない。EBMは臨床的重要性よりも統計的有意差で判断するという、一歩間違うと大きな危険をもたらす可能性がある。

因みに日常診療においては、はっきりと診断できず明確な治療指針を立てることが難しい患者群にしばしば遭遇する。個々の患者が個性的であればあるほど科学的根拠が当てはまる部分は低下してゆく。患者の抱える問題によっては他の方法を併用する必要もでてくるのである。このような場合には,あまりに科学的であろうとしすぎた医学を患者の側に今一度引き寄せる必要がある。

そこで、患者の「語り」を通じて、患者の信念にアプローチしようとするのがNBMという実践法である。NBMは、患者の身体問題のみならず生きざまや家族・社会での役割、心理社会的葛藤等、全体を統一的に知ることが欠かせない。そのためには、患者の問題に情熱を傾け、共感し、ときには経験に裏打ちされた直観を用いることも必要である。まさに普遍性よりも個別性を重視することであり、一つ一つが別物と思えるものを、互いに相通ずる物語に作り直すことなのである。ただし注意すべき点は、科学性を欠いたNBMだけでは宗教等のアプローチとの違いが不明確になりかねない。

 患者ケアをする上で、EBMにもNBMにも偏ることなく両者のバランスをとった診療姿勢が今、医療従事者に求められている。

Integrating NBM and EBM という書籍の中でSix “A”s を推奨している。

¨       Acquire enough information to understand the patient’s concern

¨       Ask a clinically relevant question

¨       Access information to answer the clinically relevant question

¨       Assess the quality of the information

¨       Apply the information to clinical question

¨       Assist the patient to make a decision

最近ではPreference-based Medicine(Timothy E, et al. Evidence, Preference, Recommendation- Finding the Right balance in Patient Care N Engl J Med 2012:366;1653-5 ) も提唱されている。

1.適切な環境で挨拶をする

2.患者の価値観、目標を引き出す

3.淡々と方略を説明し感情に応える

4.お勧め方略を示し、妥協点を見いだす

5.見捨てないことを保証し、経過観察する

一方、EBMの立場で、東京慈恵医大の勝沼俊雄氏が、喘息管理の事例を取り上げ、エビデンスに基づかない医療があった時代を振り返った。EBMに限界があったにしろ、EBMをベースに個々の患者と誠実に対峙するときの自己の感性とそこから得られる経験値を掛け合わせることが重要であることを強調された(山本和利)