札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年9月27日木曜日

兵庫医科大学講義


924,25日、兵庫医科大学医学部4年生を対象に、「医療と社会」「食の話」「貧困の話」「科学性と人間性」「腹痛患者のシナリオを提示し診断プロセス」という講義を行った。1コマ75分授業を2日間でまとめて5回行うスケジュールである。

 
導入はドキュメンタリ映画の一場面から入り、学生に問いかけた。その後、映画「ダーウィンの悪夢」を例にして、それぞれが最善を目指した結果、「ミクロ合理性の総和は、マクロ非合理性に帰結する。」「個々にとってよいことの総和は、全体にとって悲惨にある。」と結論づけ、地域医療にも当てはまるのではないか?と学生に問いを投げかけた。次に、「世界がもし100人の村だったら」(If the world were a village of 100 people)という本を紹介した。その後、1961年 に White KLによって行われた「 1ヶ月間における16歳以上の住民健康調査」を紹介した。日本も北米も大学で治療を受けるのは1000名中1名である。「医療とは」何かを知ってもらうため、ウィリアム・オスラーの言葉を引用した。「医療とはただの手仕事ではなくアートである。商売ではなく天職である。」医師は特定の技能をもつ者として権力から守られるという特権が与えられている。一方で公共に尽くすという使命があるということを強調した。

 
2コマ目、3コマ目の授業では、食料と貧困の話。アジア・アフリカ等の地域の物乞いの収入を増やすため手や足を切断する話や貧困の原因が政治の腐敗であるという話をした。食料の絡みから「狂牛病」の経緯を紹介。1985年4月、一頭の牛が異常行動を起こす。レンダリング(産物は肉骨粉)がオイルショックで工程の簡略化により発症を増やしたと考えられる。1990年代に英国で平均23.5歳という若年型症例が次々と報告。社会の経営論理を優先させた対応のしかたが、十数年後に医療に悲惨な影響をもたらした事例である。

 
4コマ目、「科学性と人間性」。オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』に収録されている、診察室では「失行症、失認症、知能に欠陥を持つ子供みたいなレベッカ」、しかし、庭で偶然みた姿は「チェーホフの桜の園にでてくる乙女・詩人」という内容を紹介した。次にAntonovskyの提唱する健康生成論(サルトジェネシス)を紹介。彼は健康の源に注目。健康維持にはコヒアレンス感が重要であることを述べた。また、医療分野を離れて、他の分野での科学的アプローチについても述べた。まず考古学の世界「神々の捏造」という本を紹介。次に農業の話。Rowan Jacobsen「ハチはなぜ大量死したのか(Fruitless Fall)」を紹介。2007年春までに北半球から四分の一のハチが消えた。何が原因か科学的に検証してゆくプロセスを科学性の例として取り上げた。人間的アプローチの例として、NMBの6Cアプローチを紹介した。

 
5コマ目は、腹痛患者のシナリオを提示し診断プロセスを解説した。鑑別診断の仕方に重点を置いた。ABアプローチ[Anatomy(解剖)Byoutai(病態)]を強調した。途中21組になって医療面接の実演をしてもらった。最後に米国の家庭医療学の本からとった16例のケーススタディを行った。

 両日ともに授業終了後、大きな拍手をもらった。テーマが普段の授業でなされている内容と異なるためか、「新鮮であった」「もっと世の中のことを知らなければならないと思った」等の感想がたくさん寄せられた。やってよかった!(山本和利)