札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年9月19日水曜日

9月の三水会

919日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:2名。 初期研修1名。他:7名。

研修医から振り返り3題。

ある研修医。外来症例。糖尿病の外来をどのようにしたらよいか迷っている。心窩部痛の62歳男性。潜血陽性で尿路結石を疑った。心電図をとっていない。心筋梗塞を除外しなくてよいのか、という意見が出た。DICという概念を患者家族に説明するが難しかった。5日間続く発熱で受診した20代女性。クラミジア感染症であった。アジスロマイシンの一発投与が原則。両手足末梢のしびれを訴える30歳代女性。血液・MRIに異常なし。多発末梢神経障害を疑い神経内科へ紹介(糖尿病性、アルコール性、ビタミン欠乏性が多い)。コメント:外来では命に関わる疾患を除外する努力をすること。自分が初診で診た患者の経過を追ってゆくことが大切。多発単神経炎ではAIDsを除外すること。喘息発作にネオフィリンとステロイドを使ったが、ネオフィリンは日本のガイドラインにしかない。サクシゾンを使うことは少ない(アスピリン喘息を悪化させる)。

(内科認定医合格の報告)。

70歳代女性。診断に苦慮している左胸水の症例。高血圧治療中。大腿頸部骨折の術後。発熱。農家の主婦。認知症がある。頻尿である。咳、血痰はなし。バイタル・サインは安定。心肺に異常所見なし。肺炎、胸膜炎、癌を鑑別診断に上げる。旅行歴、温泉歴を聞きたい。感染性心内膜炎、肺梗塞を除外したい。心不全を除外するために、体重の増加の有無を知りたい。CRP:6.1,WBC;8160 。胸水穿刺:滲出性胸水所見であった。リンパ球優位であった。ADA;41.7.ABPC/SBTは無効であった。骨折は病的骨折の可能性はないのか。背景にRAがあった。両手関節で骨破壊があった。リウマチ性胸膜炎の可能性が挙がってきた。ステロイドを開始したところ、胸水は減少した。考察:RAに無期肺+代償性胸水と考えた。胸水の鑑別診断について考察。クリニカル・パール;片側胸水には結核、癌を念頭に置く。リウマチ性も忘れてはならない。コメント:リンパ球が有意で、ADAが高いことから結核性胸水が疑われる。ステロイドで胸水が減ったことだけでリウマチ性と断定できない。要経過観察。

ある研修医。外来症例。両側顎関節痛。夜間に痛みで目覚める。20歳台男性。動悸、胸部苦悶、手足のしびれ。過呼吸症候群と診断。(初発の時には、器質疾患を見逃さないように)。10歳女性の腹痛。便秘またはモリミナ(処女膜閉鎖)と診断し経過観察。心窩部痛で受診した60歳代女性。検査後胃炎と診断。

20歳台の妊婦症例。17週に分娩希望で受診。1経妊1分娩。健診で「胎児奇形」の可能性が高いことが判明。告知をすると妊婦から「自分の責任?」「食事の影響など」の質問がでた。患者・配偶者と人工妊娠中絶についての様々なやり取りがあった。詳細は略す。難しい告知をしなければならない事例であった。妊婦の受容が難しく、医学的対応に対して家族からのたくさんの非難を受けた。否認や怒り、取引、抑うつ、受容等の過程を経験した。胎児奇形の文献考察が行われた。詳細は略す(プライバシーの関係で詳細を記すことができないのが残念である)。キュブラー・ロスの「死の受容モデル」が参考になった。様々な危機モデルが提唱されている。コメント:家族の反応には傾聴しかないか。

ある初期研修医。自験例。右ひざの痛み、腫脹。バドミントンで着地時にひねる。右前十字靭帯断裂の手術。用手的診断で「内側側副靭帯損傷」と診断された。関節穿刺針が太くて、怖くなり取りやめた。膝関節疾患の診断法について学んだ。また半月板損傷の診断法についても学んだ。患者としての気持ちを経験できた。関節穿刺をしてもらえばよかった。

卒業生の報告。職場は、救急に力を入れている研修医に人気のある病院である。元気な研修医が多い。専門医も不足しているが、周囲の地域から患者がドンドン送られてくる。専門医が自分の専門以外の領域も診ている。そのため「総合内科」としての立ち位置が難しい。「どんな患者も嫌がらずに引き受けること」を続けていたら、最近になって緩和医療を必要とする患者を紹介されるようになった。

今回は、産科で出会った重いテーマについての発表があった。患者家族の立場を尊重しての傾聴の重要さを再認識した。また、治療する上での正確な診断が必要であるが、その難しさを実感した。(山本和利)