札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年9月29日水曜日

総合医を育む離島医療

(利尻島国保中央病院会員25周年記念誌に寄せた文章を転載します。)

利尻島国保中央病院会員25周年、おめでとうございます。札幌医大地域医療総合医学講座は創設されて11年半が経ちますが、その間に教室員2名が貴院の院長として関わりました。私自身も利尻島の診療所のお手伝いをさせていただき、学生実習でも多くの者がお世話になりました。稚内港でフェリーに乗船するまでに2時間半待ったり、飛行機が欠航した際には稚内から札幌まで寝台車で帰ったりしたこともあり、離島の診療の大変さを、身をもって感じました。

かつて私が出身地の静岡県で僻地医療に従事している時も様々な困難に直面する患者さん達に出会ったことを思い出します。一人暮らしの高齢の患者さんは半身不随のため山を下りることができず、医師や看護婦の定期往診だけを楽しみにしていました。通院が困難な都会の専門医に治療してもらうことよりも、地元での対処療法で満足して感謝しながら自宅で亡くなった癌患者さんもいました。脳出血が疑われる患者さんの収容先をやっとの思いで確保、くねくねとうねった細い山道を救急車で1時間近く搬送したこともありました。肝性昏睡を繰り返しながらも地元の有志で構成されている救急隊に迷惑をかけるのを嫌って、救急車を呼ばずにそのまま自宅で亡くなられた患者さんもいました。僻地では、住民が老齢化し、老夫婦のみの核家族ばかりがどんどん増えています。特に山間地域では巡回バスやタクシーの他には交通手段がなく、在宅ケアや訪問看護、デイケア、ホームヘルパー等の活用が重要になってきますが、実際にはうまくいかない現実があります。

このような山間部の問題は、離島ではさらに過酷な面があると思います。病院の中だけで病気を治すだけでなく、社会資源を活用したり、多職種が連携したり、行政と協同したりして島全体のことに関わる必要が出てくるでしょう。離島医療の問題は一部の医療評論家が強調するようなインターネットを使って遠隔治療を導入すれば解決するといった単純なものではなく、実際その現場に行き、その現場の住民・患者さんたちと生活を共にすることでしか解決ができないからです。そのような医師を離島で確保することは容易なことではありません。しかしながら、意を決して「総合医として離島・僻地で働く」ことになった医師達は皆地域の現場で「輝いて」います。利尻島の医療も例外ではなく、これまで多くの輝く医師達に支えられてきました。そのような医師は日進月歩の医療に遅れることなく、住民のニーズに応えるべく日々それらに合わせて変容してゆきます。地域の現場が総合医としての学習の場になっています。住民・患者さんたちの生活を知ることで、その背景を考慮し包括的に診る視点が涵養されてゆきます。このような志を持ち、離島・僻地のニーズに応えられる技能・態度を持った医師を育成したいと私は思っています。

今後ともたくさんの医師が関わって利尻島の医療が益々発展することを願っております。(山本和利)