札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年7月23日火曜日

医学史 若月俊一/道下俊一


本日は、今年度最後の医学史の授業であった。

 

今日のテーマは地域医療に貢献した若月俊一と道下俊一である。

 

まず、驚いたことは2班とも、ネットや本からの情報だけでなく「現地」に取材に行ったことである。

 

若月の班は佐久総合病院へ、道下の班はご本人の実家へ。

 

この医学史では特に勉強方法を指定していない。図書館で本を借りても、アマゾンで購入しても、テレビの特集でも、ネットからコピペでも、何でもよいことにしている。たいていはWikipediaを活用している班が多い。

 

しかし、この2班は現地に取材に行くという方法を取った。かたや札幌市内・かたや長野県佐久市である。発表の中では費用が一人5万円前後かかったとある。

どれだけ費用をかけたかが問題ではない。この30分の発表のためにどれだけの情熱を傾けたかが重要なのだ。どの班もこの医学史の発表のためにそれなりに努力をし、情熱を傾けたであろう。その点に基本的な差はない。しかし、この2班の発表はやはり「すごい」。

若月はすでに他界しているので、本人の肉声は聞けなかったが、現地の生の雰囲気・当時の映像・身近な関係者の証言などを写真・動画などを駆使してまとめた発表には迫力があった。

百聞は一見にしかずとはまさにその通りで、実際に現地に行った彼らは「若月」の素晴らしさ・偉大さを肌で感じてきた事だろう。また、「死してなお」その思想が息づいている様を実感したであろう。その様子は発表内容からひしひしと伝わってきた。当時の貴重な映像や写真・新聞記事など通常では手に入らないような資料を効率よく使って発表していた。

学生の感想の中には、「テレビのドキュメンタリーを見ているようだった」とあった。それほど質の高い発表であった。

 

道下の班は現在87歳、現役で診療を行っているご本人と連絡を取り、ご自宅で取材をしたようだ。浜中町霧多布での47年間の出来事の「生の声」を効果的に発表していた。特に、ご本人だけでなく奥さんの生の声を発表していたところは、ご本人への直接取材ゆえに出せる迫力であろう。ものすごく見応え、聞きごたえがあった。

 

最後は中島みゆきの「地上の星」をバックに道下先生から札幌医科大学1年生医学生へのメッセージを力強く発表していた。非常に感動的であった。

学生の感想にもこのメッセージを挙げている人が多い

「カルテの裏側を見ろ」

「患者の話を聞け。問診ができれば診療の半分は終わっている」

「医師としての誇りと責任を持て」

 

医師13年目となった自分が聞いても深く心に残る言葉である。


この2班の発表は同じ地域医療に長年貢献してきた人物の発表ではあったが、非常に対照的であった。

 総合性と専門性を多くの医療者を巻き込んで追求して、周辺人口40万人の長野のへき地の診療を発展させた若月。

 

 総合性を自ら究め、また自らと家族の犠牲の上に8000人の集落の医療を50年近く守り続けた道下。

 

 対照的な発表に学生からの意見もさまざまであった。今回も発表の後の15分の意見交換の時間には自らの意見を堂々と発表する学生が何人かいた。

 

 学生が自主的に学習し、意見を発表し、それに対し、聞き手が自らの意見を発表する。こうした自発的で双方向の学習こそが更なる学習意欲を高めるのだと思う。実際半年の授業の中で、徐々に発表内容は充実し、発表方法も上手くなってきている。意見交換では最初は無理やり学生を指名しなければ、意見交換の時間が成り立たなかったが、今では特に何もしなくても自発的な発言が見受けられる。

 

 この半年間、彼らは確実に成長しただろう。自らの意見の発表の仕方、相手の意見の評価の仕方、少人数での意見集約の仕方、などなど。今後の人生の中で必ず必要になる技術である。彼らが将来自らの人生を振り返った時、この日この時の授業を思い出してくれたら、教育者としてこれ以上の喜びはない。(助教 松浦武志)