札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年7月1日月曜日

医学史 ナチスドイツ/731部隊


本日の医学史のテーマはナチスドイツと731部隊であった。

 

どちらも第2次世界大戦当時、捕虜や住民を対象に医学的な人体実験を行っていたとされる、いわば歴史の暗部に焦点を当てる授業である。発表内容が深刻なものであるため、今日はいつものような軽い冗談やノリは影を潜めている。そう、プレゼンテーションは時と場合によりやり方を変える必要があるのだ! 普段はふざけているように見えるかもしれないが、君たちはここぞという時にはここぞという実力を発揮できるのだ! 学生のやる気がないと嘆く教員が多いが、ここぞという状況を教員側が提示できていないことのほうが実は多いのである。

 

ナチスドイツの発表は、ナチスドイツが行ったとされる人外実験をいくつか紹介した後、なぜこのような実験が行われたか?を分析していた。現代から考えれば残酷で、通常の精神の持ち主であればできないような実験がどうして平然と行われたのか?

 

軍上層部からの強制であったのか? 否、実験にかかわった医師たちは、こうした実験が正しいことだと心から信じて行っていたのである。これこそが本当の意味の「確信犯」である。その陰には、ドイツ人こそがアーリア人の血を引く優秀民族で、それ以外のユダヤ人や障碍者・同性愛者などは下等な人種であるとの優生思想が徹底していたことと、「最大多数の最大幸福」に代表される極端な「功利主義」がはびこっていたことが主な理由であったとされる。

 

「多くのドイツ人にとって利益になるのならば、下等な人間の犠牲は大した問題ではない」との考えである。

 

こうした考えを改めるための戦後のニュルンベルグコードやヘルシンキ宣言などが人体実験に関する倫理規定として紹介された。しかし、その後も梅毒の感染実験や、放射線の影響を調べる人体実験など倫理規定に違反する事件が続発する。

 

ここまでの発表の後、倫理規定が存在するということだけで、こうした事件の再発が防げるだろうか?という全体への問いかけがあった。

 

発表は以上で終了して、その後、質疑応答となった。

発表班としては、司会班と協力して一つのテーマについて、議論を深めるような話し合いを行いたかったようだ。

 

用意していたテーマは「今話題の新型出生前診断は優生思想の表れではないだろうか?」

「福島の子供たちの甲状腺データを研究対象とすることの是非」など、非常に重く、また結論が出にくい、またその思考過程が複雑なテーマであった。一つの歴史的事実から、現代の倫理問題に発展させて、議論を膨らませようとする手法は大変すばらしいと思う。そもそも学習というのはこのような形でどんどん発展していくものである。

 

今回は、突っ込んだ議論が始まる前に、フロアから発表内容についての質問事項がたくさん出てしまったため、その回答に時間を要し、せっかくの素晴らしいテーマについての話し合いとはならなかった。

 

時間が足りなくなるほどの質問が出るのはうれしい誤算だろうが、やや残念な気もした。司会班はこうした場合に臨機応変に会場を取り仕切ってもらいたい。今回は内容に関する質疑応答をなしにすることも可能であったと思う。

 

これも、時と場合によっての使い分けが必要だろう。

経験を積むしかない。今後の飛躍に期待したい。

 

 

後半は731部隊の発表であった。

こちらの斑も、発表形式はナチスドイツと大体同じであった。731部隊の行った数々の人体実験を紹介しながら、後半は医の倫理について問題提起をしていた。

しかし、731部隊については、ナチスドイツと違い、戦後裁判などが行われていないため、物的な公的証拠が何もないのである。あくまで、戦後の研究者によって行われた、元隊員に対する聞き取りが中心となっているものからの発表である。実際、現代まで、日本政府としては731部隊の人体実験について公式には認めていない。

 

この班の発表は、スライドの図を工夫したり、映画の一部分を動画として紹介したりと、発表の工夫が随所にみられる。また、残酷な衝撃的なシーンもあるため、写真の提示時間を短くするといった配慮もしているようだ。

 

こうした実験に関与した731部隊の医師たちは、ナチスドイツと同様に、罪悪感などは感じていない。むしろ当然のこととして実験を行っていた。それは、軍からの強制でもなく、上官の命令でもない。「知りたい」という好奇心やお国のためという使命感・名誉などがこうした実験を正当化していたのである。

 

翻って、現代。こうした反省から、ナチスドイツのときと同様に倫理規定が様々に制定された。しかし、倫理的な問題は次から次へと起こってくる。

 今後、ほぼ必ず医師となる自分たちが、「既存の制度に当てはまらない新しい問題に直面した時、どう対処するか? 判断基準を持ち合わせているか?」をテーマに話し合いを行うこととなった。

 

 こちらも非常に重いテーマである。やや抽象的な感もあるが、医学生となったばかりの1年生にはぜひ考えてもらいたい問題である。

 とてもじゃないが、残り15分では足らないだろう。これだけをテーマにして2-3時間は必要だろう。本当はこうした答えの出ない問題を、学生どうして、知識を増やしながら活発にお互い議論し合ってほしいのだが、、、、残念。今回の医学史の授業範囲ではそうした時間は取れない。

 

 今回の発表の後の討論では、内容に対する質問だけでなく、『自分はこのように思った』というような自分の意見が出てくるようになった。100人を前にして、「自分の意見を発表する」というのは、今までの教育を受けてきた日本人にはハードルが高い。

しかし、今回何人かは自分の意見を堂々と述べていた。非常にいい傾向だ。こうした意見にさらに反論なんかが出てきて、司会班がうまくその場をコントロールする、緊張感ある授業にしていきたいものだ。                 (助教 松浦武志)