札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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2013年7月21日日曜日

問診とバイタルサインでここまでわかる危ない病気


 

「問診とバイタルサインでここまでわかる危ない病気」~バイタルサイン.com(ドットコム)で覚える診察の仕方~と称した医学生向けの学習会を行った。

 

 シリーズの2回目で、危ない主訴(CC)(頭痛・胸痛・腹痛)と発症形式(Onset)と程度(Magnitude)+バイタルサインの組み合わせでどこまで危ない病気に迫れるかという内容である。本日は頭痛と腹痛を取り上げた。

 

 と、勢い余って銘打っては見たものの、頭痛をバイタルサインによって分類することは結構難しい。結局、発症形式が怪しければ、CTMRIなどの画像診断が必要になるのである。

 

 そこで、よく似た(?)主訴で、「意識障害」を取り上げた。

 意識障害の鑑別は「AIUEO TIPS」が有名である。が、実際の現場では意識のない患者を前にAIUEO・・・」の順番で鑑別していくのではない。そもそも意識障害の人にA:アルコール飲酒歴があるかどうかなんて聞けない。

 

 実際の現場で、速やかに効率よく鑑別するにはどうしたらいいか?

 学生には意識障害をきたす疾患の知識だけではなく、どのように効率よく鑑別を行っていくかを考えてもらいながら講義を進めた。

 

症例は70歳男性。大通公園で意識がないところを朝方発見された。

搬入時 意識Ⅲ-300 血圧100/50 HR65 体温35.0℃ 呼吸数25回 SO2 98

 

 意識障害の患者を前にまず最初に行う検査は何か?と問うたところ、多くの学生が頭部CTを挙げた。確かに頭部CTが必要になる疾患は多いが、前例に無条件にCTを行うことが必要だろうか?

 

 そこで、BMJ. 2002 October 12; 325(7368): 800–802の論文を紹介した。



意識障害の原因が 頭蓋内疾患であることに対して、

収縮期血圧  >160   LR+  4.31

       >170   LR+   6.09  

       <110   LR+   0.21

       <100   LR+   0.084

つまり、収縮期血圧が高ければCTを考慮し、収縮期血圧が低ければ他の内科的疾患を考慮するのである。

 

 血圧の低い(循環動態が不安定な)患者をCTに連れて行けば、CTが文字通り「死のトンネル」になりかねないことを重ねて強調した。

 

 「意識障害全例に即座にCTは必要ない」

 

 1)バイタルサイン → 低酸素・ショック・低体温高体温

 2)簡易血糖測定 →  高血糖・低血糖

 3)血液ガス → アシドーシス 低酸素血症・CO2ナルコーシス CO中毒 電解質異常

 4)血圧が高ければCT →頭蓋内疾患(SAH 脳出血 硬膜下血腫など)

 5 アルコール血中濃度

アンモニア(解釈は注意が必要)

TSH f-T

Mg

BNP

胸部写真

血液培養2セット (各種培養)

髄液検査

MRI

 などなど、診断のために有益な検査を、「結果が判明するまでの時間」を意識した鑑別の仕方を紹介した。

 

 

 

 続いて、腹痛とバイタルサインについて講義した。

 腹痛は、最も鑑別疾患の多い主訴であるが、その鑑別方法で、第6のバイタルサインといわれる、起立性低血圧の有効な活用の仕方を紹介した。

 

症例は45歳 男性

1週間前から上腹部がシクシク痛い。今日は特に痛い。食事が食べられない。夜寝る前に真っ黒な便が出たので深夜0:00に救急車にて受診。

 

意識 清明  血圧 120/60  HR 86 整 体温37.0℃  呼吸数18

直腸診で黒色便を認める。

 

疑う病気を聞いたところ、ほとんどの学生は急性上部消化管出血と答えた。

では、この患者をどうするか?

 

① 深夜000に消化器内科医を呼び出して、緊急内視鏡をするか?

② 入院で点滴をつないで、朝まで様子を見るか?

③ 内服薬で帰宅・明日朝一番で受診とするか?

 

と問うたところ、③と②が多かった。その根拠は、「バイタルが安定しているから」とのことであった。

また、「消化器内科医に来てもらうだけの根拠がない」といった意見もあった。

 

 患者を帰宅させようとしたところ、

 

 臥床時血圧 120/60  HR 86 整

起立時血圧 106/72  HR 125 整

 

と、著明な起立性低血圧を認めた。

 

起立性低血圧は急性の重大な失血・脱水を示唆する。


この患者は重篤な出血が起きていることが予想されるのである。

起立性低血圧を認めることは緊急内視鏡検査の適応である。

 

起立性低血圧を診たら、

 

消化管内への出血(胃・十二指腸・大腸)

腹腔内への出血(肝・脾破裂 子宮外妊娠)

後腹膜腔への出血(腎・大動脈瘤破裂)

極度の脱水(下痢・嘔吐)

見た目の体表外への出血

 

を疑って、精査すべきである。

 

「患者は立って歩いて帰る」

     ↓

「起立時血圧は第6のバイタルサイン」

 

ということを、何度も強調して、講義を終えた。

 

系統講義ではなかなか扱わない、「臨床医の頭の中」の一端を紹介できたのではないだろうか?

 

今後も月1回のペースで、実践的なバイタルサインの評価の仕方を教えていきたい。

 

(助教 松浦武志)