札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年11月14日水曜日

教育セミナー「失敗に学ぶ」


1110日 内科学会北海道地方会 専門医部会教育セミナーにおいて「失敗に学ぶ」-教育カンファレンスの技法とは?-と題したセミナーを行った。

 

 そもそもは、私が北海道勤医協中央病院総合診療部に在籍していた時に、初期研修医のための教育カンファレンスをやろうと始めた「ヒヤリハットカンファレンス」のことを紹介する内容である。

 発表は後期研修医で、自分が当直などで当初の鑑別診断になかった診断となった症例やヒヤリハットした症例などを題材にカンファレンスを行うのである。

こうした、いわゆる「失敗症例」を多くの人の前で発表することは勇気のいることである。それは「自分が責められるのではないか?」「こんなことに気が付かなかったことは恥ずかしいことなのではないか?」というような気持になるからである。

 実際、死亡症例などを扱うMMカンファレンスでは多くの場合、参加者からの質問は「どうして○○の検査をやらなかったんだ?」「〇○をやっておけばすぐに診断できたのではないか?」などといった詰問口調や問責口調になることが多く、発表者の多くは委縮してしまう。これでは、次からこの発表者はこうした症例を皆の前で共有することは絶対になくなってしまう。

いわゆる「失敗・事故」では、引き金となった最後の出来事に注目が行きがちであるが、そこに至るまでには多くの潜在的な原因がある。そのモデルとしてReasonのスイスチーズモデルがある。セミナーではこの図を詳細に説明し、こうした教育カンファレンスでは、最後の引き金だけに注目するのではなく、その過程に存在する多くのエラーについて詳細に検討することが大切であると説明した。

また、このヒヤリハットカンファレンスの特徴は、発表者の感情を必ず表出させることにある。例えば、パニック発作の既往がある若い女性が、呼吸困難を訴えて救急車で来院すると聞いたとき、「どうせいつものパニック発作から過呼吸でしょ?どうしてそんなことで救急車使うかなぁ」といった、通常であればあまり表に出しにくい感情を、カンファレンスの中では正直に表出することである。こうした感情はヒヤリハットを起こす温床となりうるが、だれもが一度は感じる思いである。この「誰もが感じる思い」を参加者全員が共有することで、発表者も参加者も「自分だけではなかったんだ」と癒されるのである。こうした「癒される」空間を用意することは我々指導医の重要な任務である。責め立てるだけでは成長は限定的である。

もちろん、傷をなめあうだけでも成長はしない。そこから得られた教訓を、「Clinical Pearl」という具体的でかつ次の日からすぐにでも使える形に磨き上げて発表するのである。この一連の作業の中で発表者は一回りも二回りも成長する。

セミナーでは発表者の感情を大切に振り返るということと、No Blame(責めない文化)な雰囲気の大切さを強調して前半を終了した。

後半は、勤医協中央病院の後期研修医を発表者に、実際のヒヤリハットカンファレンスを実演した。

 本来は参加者と積極的な議論をしながらカンファレンスを進めていくのであるが、当日の200人は収容できるであろう大きな階段教室では、なかなか実際のカンファレンスの雰囲気を出すのは難しい。

それでも、カンファレンスの発表の仕方や、得られた教訓の発表の仕方など、それなりの雰囲気は伝わったのではないだろうか。

なお、このヒヤリハットカンファレンスは医療健康サポート、またはamazonのホームページから教育用DVDとして発売されており、詳細はそちらをご覧になってもらえれば幸いである。(助教 松浦武志)