札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年11月18日日曜日

北海道家庭医療フォーラム2012


2012年の北海道家庭医療フオーラムが札幌駅前のアスティ45において開催された。

参加者は81名。

山本和利の挨拶、企画者の寺田豊氏の進行説明の後、WSが始まった。

前半は北海道医療センターの村井紀太郎氏、八藤英典氏、勤医協余市診療所の瀬野尾智哉氏、 加藤利佳氏が主導しながら始まった。ひとつのシナリオに異なった3施設の医師が、家庭医のアプローチで挑む斬新的な試みである。

 
村井紀太郎氏の「患者中心の医療」セッション。

53歳女性、ニポポさん。咽頭痛で受診。実母と夫の3人暮らし。ここでシナリオを使ったロールプレイ。研修医役は医学部3年生、ナレーターは看護師さん、患者役も看護師さん。医療面接開始。溶連菌感染を心配している。咳、鼻水。スライドに喉の写真。Centorスコア0点なので「風邪」と診断。しかしながら患者さんは「抗菌薬を希望」。

ここで各グループで感想を出し合う。「患者さんに納得してもらうのは難しい」「患者さんの思いを訊き出していない」ここで、上級医からの指導。Ian McWhinneyの患者中心の技法を解説。エビデンス:治療の集約性やQOLが改善(Ferrer 2005)、心理側面の理解が向上(Gulbrandsen 1997)、コミュニケーションへの満足度が向上(Jaturapatpon 2007)、信頼感と治療へのアドヒアランスが向上(Fiscella 2004)、等言われている。

6つの要素を説明。(疾病・病いの両面を探る、全人的に理解する、共通基盤を作る、良好な人間関係の構築、予防を重視、現実的に対応)。特に「疾病・病いを探る」の具体的方法を提示。

か:解釈、考え

き:期待

か:感情

え:影響

Context:患者・家族・地域・社会を含め全人的に理解する。

最初の医療面接では、共通基盤が築けなかった。

その後の面接。「同僚が溶連菌感染で、抗菌剤で軽快した。孫に感染させるのが心配」「ストレプト検査を提案し実行したところ、結果は陰性」「患者は安心して帰宅した。」その後、咽頭違和感が続き、継続受診している。

 

続いて、瀬野尾智哉氏の「家族指向のケア」セッション。

家族図を提示。孫が重い心臓病で、娘(シングル・マザー)はかかりっきり。患者が10ヶ月の孫の世話をしている。

家族面談をする。家族図・家族ライフサイクルを用いて仮説を立てる。

1.ジョイング、2.ゴールの設定、3.問題点についての話し合い、4.プラン作り、5.質問を促す。

面談後の作業

・面談表の記入(出席者、問題点、プラン)

・家族の見直しと変更点・追加点の記入

成功させるポイント

・アイメッセージで悪者を作らない。

・参加者の辛い状況に十分共感する。

・「意見の引き出し」と「交通整理」のバランスをとる。

ここでシナリオに基づいて15分間のロールプレイ。意見発表。

 

続いて、加藤利佳氏の「アウト・リーチ」セッション。

アウト・リーチとは、病院や診療所で待っているだけでは介入できないunderserved populationを同定・分析し、健康増進のために「手を伸ばす」という考え方である。予防医医学、教育、地域の健康増進など様々な内容が含まれる。

 

underserved populationとは?

IQが低い、低所得者、外国人、身体障害者、学歴が低い、地理的に不便、等。

今回は母子家庭に注目。母子家庭は全国75万世帯。平均収入291万円。帰宅時間が遅い。祖父母が養育。教育、しつけ、健康、食事影響が悩み。こどもが風邪をひいたときで考えてみる。underservedとなる理由:経済的、時間的問題、面倒をみてくれる人がいない、内服管理ができない、予防接種が遅れる、衛生環境が悪い、妻・奥さんとしての役割、父親としての役割から隔絶されている。(個人では管理できない社会状況の影響を受けている。)

アプローチ

開院時間を夜遅くする、土日の診療を増やす、予防接種率を上げる工夫、健康フェスタを開催、性教育の工夫、家庭訪問をする。

 
後半は道内の家庭医養成コースをもつ後期研修プログラム担当者から

施設と研修内容についてのプレゼンテーションが行われた。特別講演の後、講演者を中心にパネルディスカッションが行われた。

その後は軽食を取りながらの懇親会となり、打ち解けた雰囲気の中で学生と医師の情報交換が行われた。(山本和利)