札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年1月25日金曜日

CRPで肺炎のリスクを評価できるか?

肺炎と診断され、入院まで決まった高齢患者(CURB652点、CRP:1.5mg/dl)が入院を拒否して帰宅してしまった。

CRPが高くないので心配は不要だろうか?

肺炎のリスクをCRPで評価できるという論文を発見した。信用してよいものだろうか?

 

James D. Chalmers, et.al. C-Reactive Protein Is an Independent Predictor of Severity in Community-acquired Pneumonia. The American Journal of Medicine (2008) 121, 219-225

 

背景

C-reactive protein (CRP)interleukin-6に反応して肝臓で合成される。CRPで市中肺炎の重症度を判定できるのではないかと考え研究を行った。

方法

教育病院で2年間の前向き研究。入院時と4日目にCRP を測定。 転帰は30日後の死亡率、気管挿管率、その他合併症等。多変量logistic regression.で解析。

結果

570 名が参加。 30日目の死亡率は9.6%.であった 。 CRP値が低い群(10 mg/dL 以下)の30日目の死亡率の odds ratio [OR] 0.18; (0.04-0.85),気管挿管OR 0.21; 0.14-0.4),複雑肺炎 OR 0.05;( 0.01-0.35)であった。4日目の CRP 50% 以上低下しない群の30日目の死亡率OR 24.5; (6.4-93.4), P _.0001;

気管挿管OR 7.1; (2.8-17.8), 複雑肺炎 OR 15.4; (6.32-37.6)であった。

結論

CRP値が低い群(10 mg/dL 以下)の30日目の死亡率、気管挿管率、複雑肺炎 への移行率は低かった。

4日目の CRP 50% 以上低下しない群の30日目の死亡率、気管挿管率、複雑肺炎 への移行率は高かった。

CRP値単独で市中肺炎のリスク評価となり得る。

 

文献を批判的に吟味してみよう。

Cohort論文の批判的吟味
A.妥当性
はい/いいえ/不明
1.疑問が定式化されているか?
P:市中肺炎患者で
ECRP値が低い群と
C:CRP値が高い群で
O:30日目の死亡率に差があるか
はい
2.前向きコホートは後ろ向き研究より強力?
 
3.対象群とコントロール群とは研究開始時に、関連する要素は類似しているか(性別、年齢、社会階級、喫煙)?
2群に分けて比較していない。
4.すべての参加者が適切に数えられているか?
・追跡率が80%を超えているか?
・割り付け通りに分析(intention to treat)されているか?
はい
 
割り付けではない
B.結果は何か
 
5.治療効果の大きさは?
・どんな転帰を測定したか?
Odds比、RR、RRR、ARR
Odds比で記載。
0.18,0.21, 0.05と有意な差を認める。
9.どのくらい正確か?
95%信頼区間
記載されている
C.結果の関連性は?
 
10.眼前の患者とこの研究への参加者は類似しているか?
参考にはなる。

 

<バイアス等の問題点>

・既にCURB65という臨床指標がある。それよりも優れた評価指標ではない。

CRPは肺炎等の感染症以外の疾患に罹患しても上昇する(特異度が低い)ので、CRPを目安に治療をしよとすると安易に広域スペクトラム抗菌薬を使いかねない(岩田健太郎氏)。

CRPは罹患後36-48時間後にピークを迎えるので、入院の指標としては不適切である。

CURB65で評価すればよい。

・最近ではprocalcitonin1-3日間モニターし、その解析が注目されている。

・重症肺炎を扱う施設では、CRP値が低い群(10 mg/dL 以下)でも19%死亡しているという報告がある。

 

<クリニカル・パール>

安易にCRPだけを肺炎患者のリスク評価に使うことは危険である。CURB65等の臨床指標を第一にして、あくまで参考にとどめるべきであろう。