札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年1月11日金曜日

風邪


日常診療で「風邪」と診断することは多いが、医学部でそれを系統的に教えることは少ない。その「風邪」について系統的に、日常診療に沿ってまとめた本が出版された。岸田直樹著『風邪の診かた』(2012年)医学書院、である。

風邪を定義すると、「ほとんどの場合、自然寛解するウイルス感染症で、多くは咳、鼻汁、咽頭痛といった多症状を呈するウイルス性上気道炎のこと 」。そのとき、「ウイルス感染症 」は、多領域に及ぶ感染の症状 を引き起こし、「細菌感染症 」は単一の臓器に1種類の菌が感染 するという原則を覚えておくと参考になろう。

 
診察にあたっての考え方。3段階で考える。

}  咳、鼻汁、咽頭痛の3領域に注目する

       Step1 典型的風邪型

       Step2 3症状のどれが主か

   1.鼻症状

   2.喉症状

   3.咳症状

       Step3 細菌感染症との区別

   細菌性副鼻腔炎

   A群溶連菌咽頭炎、扁桃周囲膿瘍、急性咽頭蓋炎

   細菌性肺炎

■鼻症状が主な場合

   アレルギー性鼻炎

   朝方にくしゃみ、鼻水がでる

   季節性の経過

   視診で鼻粘膜が蒼白

   細菌性副鼻腔炎:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ・カタラーリス がほとんどである。

   症状が二峰性

   片側の頬部痛

   うつむいたときの頬部痛

   上歯痛

   鼻汁色調の変化

   膿性鼻汁

   坑アレルギー薬に反応が悪い

   治療を考慮する場合

   片側の頬部痛、腫脹、発赤

   7日以上症状が続く(発熱、痛み)

       要注意

   糖尿病患者:ムコール

   好中球減少症:アスペルギルス、ムコール

       治療:サワシシン、+オーグメンチン

UpToDateを読んでも、抗菌薬を使用しなければならない状況は、思った以上に少ない。

■喉症状が主な場合

Five killer sore throatsを見逃さないこと。

   急性喉頭蓋炎

   扁桃周囲膿瘍

   咽後膿瘍

   Ludwiingアンギナ (口腔の蜂窩織炎)

   Lemierre症候群 (感染性血栓性頸静脈炎)

   嚥下痛がないときは要注意!

   心筋梗塞、大動脈解離、

   亜急性甲状腺炎:TSH, ESR

   Centorの診断基準 (これを知らないと総合診療医と言えない)

   38℃以上の発熱、圧痛を伴うリンパ節腫脹,白苔、咳なし

   伝染性単核症

   VCA-IgM, CMV-IgM で確定。

   「喉頭違和感 」患者も少なくない。

■咳症状が主な場合

肺炎を疑う病歴は、 「悪寒戦慄を伴う発熱+咳 」と「二峰性の症状」

胸部Xpの感度は100%ではない 。7%で初期の肺炎ははっきりしない。 インフルエンザ、結核 を忘れないこと!

■咳が長期間続く場合

   気管支炎後症候群

   後鼻漏

   結核

   咳喘息

   逆流性食道炎

   百日咳

   ACE阻害薬

   肺がん

を鑑別する。

■高熱型の場合

        1. 急性腎盂腎炎
        2. 急性前立腺炎
        3. 肝膿瘍
        4. 化膿性胆管炎
        5. 感染性心内膜炎
        6. ケテーテル関連血流感染症
        7. 蜂窩織炎
        8. カンピロバクター腸炎の初期
        9. 師髄炎
        10. 肛門周囲膿瘍
        11. その他:敗血症
■微熱+倦怠感型

これをきたす二大疾患は急性肝炎 と急性心筋炎 !倦怠感が著しい場合、心音を聴取をすること。

非感染疾患
        1. 無痛性甲状腺炎
        2. PMR
        3. 悪性腫瘍
感染症
        1. 結核
        2. 感染性心内膜炎
        3. CMV mononucleosis

■発熱+頭痛型の場合

最初、ウイルスは後回しにして考える 。SLE 、Behcet病、 サルコイドーシス 、繰り返す髄膜炎 等を念頭に置く。

感染性 では、

・硬膜外膿瘍

・細菌性髄膜炎

・細菌性心内膜炎

・(結核)

・(HIV髄膜炎)

■発熱+胃腸症状の場合

胃腸炎 と診断するには、「38℃以上の発熱 」「6回以上の下痢 」「腹痛 」の条件を満たすこと。安易に胃腸炎と診断すると、「胃腸炎に紛れた疾患 」を見逃しかねない。

胃腸炎に紛れた疾患

        1. 虫垂炎
        2. 心筋梗塞
        3. 糖尿病性ケトアシドーシス
        4. 消化管出血
        5. 脳血管障害
■発熱+関節痛の場合
   ウイルス感染

   パルボウイルス

   風疹

化膿性関節炎 では、淋菌性 または反応性 を考慮する。

高齢者の多関節炎 では
        1. 痛風/偽通報
        2. 細菌性;A群溶連菌
        3. 肺がん
■発熱+皮疹型の場合

   重要なのは流行りと接触歴

多形滲出性紅斑 では

        1. マイコプラズマ感染源、単純ヘルオエスウイルス
        2. アデノウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、コクサッキーウイウス、パルボウイルス、HIV、サルモネラ、結核、梅毒
        3. 薬剤;NSAIDs、抗けいれん薬、抗菌薬
結節性紅斑 では、連鎖球菌感染 、薬剤性 、原因不明 、その他;避妊薬、SLE,HIV,梅毒

■発熱+頸部痛型
        1. 伝染性単核症
        2. 菊池病
        3. 悪性リンパ腫
        4. 結核
        5. サルコイドーシス
        6. その他
頸部痛なのに所見がない場合は要注意!「大動脈解離 」「心筋梗塞 」「くも膜下出血 」!特に突然の発症例では頸部触診、聴診を忘れないこと!

最悪な感染症 は、「深頸部感染症 」「髄膜炎 」「骨髄炎 」「硬膜外膿瘍 」
 

「風邪」といっても勉強すると奥が深い。緊張して日常診療に臨まなければと気持ちを新たにした。(山本和利)