4月16日、札幌医科大学の特別推薦枠学生(2、3年生)対象にランチョンセミナーを行った。松前町立松前病院長の木村眞司先生の司会で、学生から今後に期待する活動の意見を求めた。月1回を目標に、医療面接(講師:寺田豊助教)や身体診察(講師:木村眞司先生)の学習をすることになった。たくさんの学生の参加を期待したい。(山本和利)
札幌医科大学 地域医療総合医学講座
2010年4月16日金曜日
特別推薦枠学生ランチョンセミナー
臨床疫学入門
4月15日、札幌医科大学大学院修士課程に入学した方を対象に「臨床疫学入門」という講義を行った。参加者は8名、検査技師、獣医師、元新聞社勤務、栄養士、鍼灸師学校講師、美術関係者等、様々な背景をもった人たちである。
はじめに科学とはどういうことかについて宇宙論を例に解説した。1)実験、2)理論(二元論、要素還元主義)、3)反証性、がその特徴である。2005年、韓国のソウル大学ファン・ウソク教授の「ヒトクローン胚を使ってES細胞を作った」という論文捏造につて紹介し、科学社会の構造的問題について軽く触れた。
尾藤誠司先生の持ちネタをお借りして「暮らしの手帖」を例に科学的な姿勢について解説した(電子レンジで調理について)。PICOについて解説し、臨床研究のプロトールの書き方などを紹介した。
P:調理されるもの
E:電子レンジで調理
C:フライパンORなべでの調理
O:焼き目、味、調理時間、調理者の手間、費用
その中で、二十世紀最良の論文と言われるCAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)studyを紹介した。(心筋梗塞は急性期が過ぎてから合併する不整脈が時として致死的となるため、抗不整脈薬が有効であるという理論・予測があり、抗不整脈薬が予防的に投与されていた。しかし、最も有効な薬剤グループを調べるためにランダム化比較試験による臨床実験が行われところ、中間報告で最も死亡率の低いのは薬剤非投与群だったことが判明。安全のために試験の一部が打ちきりとなり、以後は抗不整脈薬が一律に投与されることはなくなった。)
残り時間で、臨床研究のプロトコールに作成法や統計の話、研究のデザイン・バイアスについて言及した。
参加者からは、「講義を受けて論文の必要性がわかった」「今後の研究の展開に有益であった」「スタート時点でこのような講義を聴けてよかった」「「とても面白い講義でした」「PICOを今後の研究生活に活かしてゆこうと思った」「会話調の講義にすっかり引き込まれた」「文系出身者にはとても参考になった」等の意見をいただいた。大学院生の皆さん、論文作成、頑張ってください。(山本和利)
2010年4月13日火曜日
地域医療合同セミナーI
4月13日、札幌医科大学全学の1年生を対象に「地域医療合同セミナーI」という科目のオリエンテーションを行った。両学部合同で行う選択授業で定員は医学部18名、保健医療学部18名である。一年間にわたっての30時間の授業内容にについて説明が行われた後、利尻島で35年間ウニの研究に携わる高橋延昭先生の講演があった。研究や実践以外にも話がおよび沢内村の医療や日本国憲法第25条等にも言及され、若者に対してどう生きたらよいかについて暖かいメッセージが込められていた。一つの分野に地道に取り組んできた人の言葉は感銘深いものがあった。最後にこの科目に関わる教官が舞台に上がって自己紹介を行った。山本和利と河本一彦助教も挨拶させられた。来週は、山本和利が「地域医療に必要なこと」を講演する予定である。(山本和利)
2010年4月12日月曜日
日本プライマリ・ケア連合学会誌編集会議
4月10日、東京の医師会館で開催されたプライマリ・ケア連合学会編集委員会に参加した。小泉俊三編集長より就任に当たっての挨拶があった。質の高い学会誌を作ることを宣言された。引き継ぎ論文については受理された3論文、和文10編、英文3編。投稿論文は原則として原著論文として扱う。英文誌(11巻1号)に8編を掲載予定(年2回発行を目標)である。J−STAGEのJアーカイブでGeneral Medicineの10年分の論文を見ることができる。学会誌の正式名は日本プライマリ・ケア連合学会誌:An Official Journal of the Japan Primary Care Associationとなった。著者連絡先にe-mail addressを入れることになった。連載として、インタビュー・ジェネラリスト温故知新、臨床医学の現在(プライマリ・ケア・レビュー)、ジェネラリストに学ぶ診断推論、反省的実践家入門等があがっている。乞うご期待。最後に、広告掲載について今後どうするかで議論があった。(山本和利)
日本内科学会:日本の内科系専門医制度が進むべき道
4月9日、東京有楽町で開催された日本内科学会の「日本の内科系専門医制度が進むべき道−総合医のあるべき姿も含めて—」というフォーラムを聴講した。はじめに認定機構の池田康夫先生からわが国の専門医制度の概略があり、2つの論点に立って述べられた:1)医師の地域・診療科の偏在の是正、専門医認定の透明性・公正性の確保(中立的第三者機関が行う)。2)基本領域と専門領域の2段階制にする。問題点:学会が専門医制度を作り認定しているため、基準が不統一であり質が担保されていない。公的なサポートがない。臨床能力本位になっていない。今後、専門医の適正な数を設定し、患者の視点に立つ、プログラムの充実が直近の課題である。
次に福島県立医大の渡辺毅先生が2つの視点(ミクロの視点、マクロの視点)から話された。ミクロの視点:主訴から鑑別診断、決断治療、コンサルテーションに繋げることが総合内科に基本的能力として求められる。Subspecialtyの医師にも総合内科能力は大切である。マクロの視点;疾病構造の変化に対応できること。患者のニーズに対応する必要があるのに、慢性疾患の全身管理をする内科医を目指す者が減っている。さらに総合内科専門医を受験者は半減している。総合内科に限らず専門医(腎臓内科)の数において5倍の地域差がある。地域を基盤とした専門医制度を再構築する必要がある。地域医療連携の要として総合内科専門医を位置づけた。
次に千葉大学の生坂正臣先生が総合内科専門医のキャリアパスと題して、「崩壊する地域病院への処方箋となるか」について分析された。はじめに「総合内科専門医は単にブランド化しているにすぎないのではないか」と核心を突いた問いを投げかけた。地域で内科を標榜する診療科の全身管理能力についての調査を示した。その中で安定した慢性疾患患者の全身管理ができると答えたのはわずか13%であり、ワーファリン、インスリン、HOTに対応可としたものは7%にすぎなかった。日本は英国の専門医制度に近づいている。分化と統合は自然な流れであり、統合も視点を変えれば分化とも言える(例えば家庭医療は診療場所を主に診療所に限定するという分化)。総合内科専門医が生き残るためには、1)成人の慢性疾患全般を診ることができるadult primary care physician、2)総合内科医を現場で育てるclinician educator、3)診断のエキスパートであるambulist、であるとまとめられた。
その後、弁護士の鈴木利広先生が患者の立場で意見を述べ、黒木茂広先生が自治医大卒業生の30年間の活動をまとめられた。その中で「本質的、多面的、長期的に」「切り取らない医療」「社会的視野を持つ」という3点を強調された。
4名のシンポジストが壇上に上がった総合討論の場で、「地域で様々な疾患に対応している忙しい医師が研修条件を満たさないという理由で総合内科専門医を受験できない現状の改善」を要望したところ、会場から大きな拍手が起こった。現場と制度の乖離を窺わせた。
全体的な印象として、総合内科専門医が単にブランド化しているだけではいけないという企画者の思いが伝わってきた。日本プライマリ・ケア関連学会の専門医制度確立への動きがこのような企画を生んだようでもあり、その意味で巨大な内科学会に日本プライマリ・ケア関連学会を意識させるようになったと考えると、プライマリ・ケアの3学会が統合したことは大きな意味があったと思える。(山本和利)
2010年4月9日金曜日
Evidence-Based Medicine 診断編1-1

4月9日、Evidence-Based Medicine 診断編1。その内容を紹介しよう。
はじめに、診断のプロセスについての解説をした。
4つのパターンが知られている。
1) パターン認識(pattern recognition, Gestalt):効率のよい近道となることが多いが、はじめに間違えると後戻りしにくい欠点がある。「動悸、発汗、体重減少」からバセドウ病を疑い、メルカゾールで治療した。実は亜急性甲状腺炎であった、というようなことがある(亜急性甲状腺炎ははじめ機能亢進でも自然に正常化し一時機能低下となることがある)。
2) 多分岐法(multiple branching method)
3) 仮説・演繹法(hypothesis-deductive method)
ベテラン医師が用いる方法である。
4) 徹底的検討法(method of exhaustion)
病棟でまれな症候を持つ患者などに教科書などを参考にひとつひとつ当ってゆく方法。
胸痛で考えてみよう。命に関わる病気を見逃してはいけない。4 chest pain killer(急性冠症候群、肺塞栓症、解離性大動脈瘤、緊張性気胸)。
1)鑑別診断を挙げる(5つ程度)
2)最も疑わしい疾患の検査前の可能性を設定する
3)治療すべきか,経過観察すべきか決断が下せないとき,検査をする
4)検査の特性を知る
5)検査前確率と検査特性から,検査陽性または陰性時の疾患の確率を計算する
6)まだ,治療すべきか,経過観察すべきか決断が下せないときは次の検査をする
■40歳の女性Aは階段を昇った後、左前胸部にしめつけられるような痛みを5分間経験した。その後、立ち止まって休んだら治まったが心臓病ではないかと心配して来院した。
■60歳の男性Bも階段を昇った後、左前胸部にしめつけられるような痛みを5分間経験した。その後、立ち止まって休んだら治まったが、やはり心臓病ではないかと心配して来院した。
■30才の女性Cは階段昇降時にズキンという10秒間続く左前胸部痛を主訴に来院した。
どんな疾患を考えるか。
労作性狭心症で考えてみよう。科学的に診断するためには、はじめに、事前(検査前)確率を想定することが大切である。
一般に医師が診断に用いる推論は患者の年齢,性別,人種,主訴から,ときに身体所見や検査データから初期仮説を形成することから始まる.これは経験的,主観的なものであるため、厳密なものではないが、データを蓄積することによって一般化できることもある
初期仮説で想定した病気の検査前確率は,病歴と身体所見から推定される.これまでは、「かなり」,「まれ」,「まあまあ」などと表現されていたものを数値、すなわち%や少数、分数で表現するようにする。これによって検査後確率が計算できる。
学生に想定させるとBさん(病気の可能性の高い場合)を低めに、逆にCさん(病気の可能性の低い場合)を高めに設定する傾向にある。
データとしては以下のようなものがある。
3つの質問を行い、その該当数と年齢、性別から検査前の確率を想定した。
Q1.前胸部に締めつけられる痛みがあるか?
Q2.運動で誘発されるか?
Q3.安静(亜硝酸剤)で治まるか?
これからゆくと、Aさんは55.2%、Bさんは94.3%、Cさんは0.3%となる。
大部分の学生はなんでこんな訳のわからないことをさせるのだ、という顔をしている。ここまでが前半の30分。(山本和利)
Evidence-Based Medicine 診断編1-2
後半に突入。
2×2表を書いて検査後確率を計算しよう。
検査の結果(横に)と真の診断の結果(縦に)である4種類の組み合わせを表現した図である。
| | 至適基準 | ||
| あり | なし | ||
| 検査 | 陽性 | TP(真陽性数:●) | FP(偽陽性数:▲) |
| 陰性 | FN(偽陰性数:■) | TN(真陰性数:◆) | |
科学的な考え方。Bayesの定理
18世紀に英国人Bayes Tが考えたもので「はじめに考えた可能性」に「あとから得られた情報」を加味すると「あとで考える可能性」が得られるというものである。診療の場面では(検査前確率)を想定して、検査の(感度・特異度)を用いて計算すると(検査後確率)が得られる、となる。
検査結果が陽性であれば即診断確定というわけにはいかず、表3-1でいうと、検査が陽性の場合の検査後確率=●÷(●+▲)であり、検査が陰性の場合の検査後確率=■÷(■+◆)である。
感度=●÷(●+■)=TP/(TP+FP)と表される。感度を知るためには、表を縦みることがポイントである。
特異度=◆÷(▲+◆)=TN/(FP+TN)と表される。特異度を知るためには、感度と同様に表を縦にみることがポイントである。
Aさんは50%、Bさんは 90% 、Cさんは0.5% とした(読者が計算しやすい数字とした)。A,B,Cの3人全員,負荷心電図でSTが1.6mm低下したとする.
負荷心電図ST低下>1.5mmをカット・オフ値としたときの割合
| 負荷心電図のST低下 | 狭窄のある者の% | 狭窄のない者の% |
| >1.5mm | 40 | 4 |
| 0.0-1.50mm | 60 | 96 |
その結果、負荷心電図ST低下>1.5mmをカット・オフ値としたときの感度は40%、特異度は96%である。
2×2表による計算
| Aさん:50% | 冠動脈狭窄 | 検査後確率 | ||
| あり | なし | |||
| 負荷心電図 | 陽性(>1.50mm) | 200 | 20 | 200/220=0.91 |
| 陰性(0.0-1.50mm) | 300 | 480 | 300/780=0.38 | |
| | 500 | 500 | 1000 | |
| Bさん:90% | 冠動脈狭窄 | 検査後確率 | ||
| あり | なし | |||
| 負荷心電図 | 陽性(>1.50mm) | 360 | 4 | 360/364=0.99 |
| 陰性(0.0-1.50mm) | 540 | 96 | 540/636=0.85 | |
| | 900 | 100 | 1000 | |
| Cさん:0.5% | 冠動脈狭窄 | 検査後確率 | ||
| あり | なし | |||
| 負荷心電図 | 陽性(>1.50mm) | 2 | 39.8 | 2/40.8=0.05 |
| 陰性(0.0-1.50mm) | 3 | 955.2 | 3/958.2=0.003 | |
| | 5 | 995 | 1000 | |
Aさんの負荷心電図でSTが1.6mm低下したときの検査後確率は91% であり、1.5mm以下であった場合には38%となる。同様に求めるとBさんでは99% と85%、Cさんでは5% と0.3%となる。このように検査結果が同じであっても検査後確率は異なることが学生さんにも実感できたようだ。検査前確率を決定する問診、身体所見の重要性を再認識してくれた。
診断しようとする疾患の検査前確率がCさんのようにかなり低いとき又はBさんのように高いときには、検査後確率の変動が少ないので、診断のためにあえて検査をする必要はない。また、検査前確率が高いときには、陰性結果であってもまだかなり検査後確率は高いことが多く(Bの場合は85%)、陰性結果のみで最終診断とすると偽陰性という誤診になりかねない。検査前確率が低いときには、陽性結果が得られても(Cの場合5%)、偽陽性の可能性の方が強く残る。当然であるが、精査すべきなのは、Aさんのように疾患があるかないかはっきりしない場合である。
検査前確率の応用:診療の場
病気かどうかわからない人が集まる市中病院(A)、病気の人がたくさん紹介されてくる大学病院(B)、病気の人が少ない人間ドックや検診(C)に置き換えて考える.
大学病院では検査前確率が高いので、結果が陽性の時に病気と診断しても間違うことは少ない。一方、大学病院と同じ方法を用いて、診療所や検診の現場で実施すると、たとえ結果が陽性であっても偽陽性の可能性が高いということである。
すなわち、診断過程はどのような患者層を診ているかによって違って然るべきであると言えよう。
検査前確率の応用:検査前確率の間違った設定
ある患者について、大部分の医師が想定する検査前確率とはかけ離れた検査前確率を想定する医師は、確定または除外診断に至るまでに、さらに高額で危険な検査を追加するはめになる。そうならないためには、しっかり問診をし、身体所見をとって検査前確率を適切に想定できるようになって欲しい。(山本和利)
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