札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年5月7日金曜日

医療のこと、もっと知ってほしい

 連休中に読んだ本の紹介をしたい。「医療のこと、もっと知ってほしい」というタイトルの岩波ジュニア新書である。佐久総合病院のことを通じて若者に医療の現状を説明している。ドクターヘリ、地域医療の最前線、なぜ医者になるの?、医療の土台「国民皆保険」の4章からなる。

「地域医療の最前線」の章では私が知っている北澤彰浩先生が出てくる。訪問診療の場面で、患者さんの介護されている部屋の位置や日当たりでその家族の気持ちがわかることや出された食事を食べて味付けや塩分量を推測するなど、現場感覚が散りばめられている。部屋に飾られているモノからその人生を推測し、患者さんや家族と会話をすすめるとよいなど、ナラティブの実践法も参考になる(藤沼康樹先生も同様なことを研修医に言っている)。

「なぜ医者になるの?」の章でフィリピン国立大学医学部レイテ分校(SHS)のことが紹介されている。学生は生まれ育った町や村の推薦を受けて、奨学金をもらいレイテ島に集まってくる。教室の授業と島での仕事を半々に行い、2年間で助産師の資格を得る。さらに勉学を希望する者は看護師養成コース、正規看護師、医師コースへと進んでゆく。長純一先生が「日本の医師教育は病棟診療を重視してきました。現実には多くの職種がチーム医療で対応するのですが、患者さんを多面的にとらえる意味では医師の社会的教育が必要です。コミュニケーション能力を含めて、医師になった早い段階で、日本でも地域に出たほうが社会性は鍛えられます。」と発言している。

 わが国でも奨学金給付による入学制度が全国各地に増えて来ているので、このような制度を日本でも参考にしてほしいものである。本書は、「将来、医療がどのように変わってゆくのか。若い皆さんに未来は託されています。」と結んでいる。(山本和利)