札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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2014年8月14日木曜日

8月の後期研修振り返り


88日、札幌医大で、後期研修医の振り返りの会が行われた。後期研修医:2名。他:4名。

 

ある研修医の外来経験症例。今年6月初旬より汗をかけなくなった30歳台男性。

昨年まではむしろ多汗気味であった。特に思い当たるきっかけはなし。日中、仕事中は水を頭にかぶりながら作業しているが、体温が39℃になることもある。内科受診し血液検査異常なし。脳神経外科受診しMRI異常なし

 

無汗症をGoogleで検索すると、特発性後天性全身性無汗症

acquired idiopathic generalized anhidrosisAIGA)がヒットした。

 1. 概要

発汗を促す環境下(高温、多湿)においても、発汗がみられない疾患を無汗症という。まれな疾患で発症率は明らかでない。

無汗のため、皮膚は乾燥し、時にはコリン性蕁麻疹を合併することもある。また、高温の環境下において体温調節ができず熱中症を容易に発症し発熱、脱力感、疲労感、めまい、動悸さらには意識障害など重篤な症状が出現することもある。このため、夏には外出できなくなるなどの生活の制限がありQOLが著しく損なわれる疾患である。

無汗症は先天性と後天性に分類され先天性無汗症は先天性無痛汗症、Fabry病などがある。

一方、後天性全身性無汗症の原因はエクリン汗腺の異常、交感神経の異常、自己免疫性疾患、薬剤などによる続発性の発汗障害と原因不明の特発性後天性全身性無汗症に分類されている。

特に、特発性後天性全身性無汗症は現在、診断基準、治療法も確立されてなく治療に苦慮する疾患である。

特発性後天性全身性無汗症は、特発性分節型無汗症とidiopathic pure sudomotor failure(IPSF)などに分類されているが、その病態は明らかにされていない。

皮膚科コンサルト。無汗症疑いで大学病院紹介

 

研修医から振り返り1題。

 EBMを用いて病因を検討した一例

前失神状態で救急搬送された80歳代女性。認知症の既往あり、アリセプト® (ドネペジル)、メマリー® (メマンチン)を内服中。メマリー®3週間前に新規処方され、最近10mg→15mgに増量したようだ。

Schellong試験を行うと、症状の誘発はなかったが収縮期血圧の大幅な低下(>20mmHg)を認めた。

上級医からは抗認知症薬の副作用として失神や転倒のリスクは高そうとのアドバイスあり。

実際はどうなんだろう、と思い文献を探した。・・

 

Patient:

 認知症患者が

Intervention:

 ChE阻害剤、メマンチンを内服すると

Comparison

 内服しない患者と比較して

Outcome:

 失神・転倒関連のリスクが高まるかどうか

 

  • Pubmed
     “Syncope”[Mesh]) AND memantine
     "Syncope"[Mesh]) AND donepezil
    で検索

  • それぞれ2件、9件ヒット
     

  • 高齢認知症患者のおよそ2/31年間に転倒する
  • この割合は健常高齢者の28倍高値である
  • ChE阻害剤およびNMDA受容体アンタゴニストであるメマンチンはアルツハイマー病などの認知症によく用いられるが、歩行や転倒にどの程度影響を与えているかはわかっていない
    本研究はChE阻害剤およびメマンチンが認知症患者におよぼす転倒に関連するイベントを評価した。
     
    結果
    ChE阻害剤のイベント発生
    転倒発生率に有意差なし    研究間の異質性なし
    失神発生率が有意に上昇   研究間の異質性なし オッズ比1.531.022.30
     
    骨折発生率の有意差なし  研究間の異質性なし オッズ比1.390.752.56
    不慮の事故による負傷の有意差なし  異質性あり
     
     
    結論
    ChE阻害剤は失神のリスクを高める
    メマンチンは、リスクは高めない
    しかしながら、これらが過小報告されている可能性は
    除外してはならない
    メマンチンの骨折リスク減少に関してはさらなる前向き研究が望まれる
     
    ChE阻害剤+メマンチン併用群の評価がない
    併用でリスク増大の可能性?
    認知症の重症度を評価できないまま退院
    今回の研究結果よりも影響大きい?
     
    ある研修医の振り返り。
    スナックでスタッフがそばを作り、客に提供。客は味に異常を感じ、すぐに吐き出す。客からのクレームを受けてママが試しに飲んでみる(2口)と、やはり変な味で、続けてスタッフも試し飲み(1口)。後になって、スタッフがめんつゆだと思っていた茶褐色の液体が、ママが別の客からもらった除草剤であることがわかり、3人一緒に救急搬送となった。当院到着時点で除草剤摂取から約40分経過。
    後に除草剤はグリホサート(ヒト経口推定致死量2ml/kg)と判明。
    胃洗浄、活性炭投与の後、経過観察目的に1泊入院となった。特に新たな症状の出現もなく、翌日退院となった。
     
    調べたこと
    中毒に特徴的な症状

  • せん妄:ヒ素、タリウム
  • 痙攣:テオフィリン、炭酸リチウム、グルホシネート、ヒ素、タリウム、メタノール、アルコール離脱症状
  • 意識障害:ヒ素、タリウム、エタノール、鉛
    特徴的な臭い

  • ニンニク臭:ヒ素、有機リン
  • アーモンド臭:青酸化合物
  • 靴墨臭:ニトロベンゼン
  • 防虫剤臭:ナフタリン、パラジクロロベンゼン
  • 腐乱臭:硫化水素
  • 洋梨臭:抱水クローラル
  • アセトン臭:エタノール、アセトン
    胃洗浄

  • 致命的でない中毒,あるいは摂取量が比較的少ない場合には活性炭投与が第一選択で,そうでない場合には胃洗浄の意義は否定されていない.
  • ただ,救命救急センター以外の医療機関では活性炭を常備していない施設が多いので,摂取物の毒性が高い場合,または服毒早期であれば,胃洗浄は来院時に施行すべき.すなわち,胃洗浄はできるだけ早期に実施することが原則で,一般的な目安としては1時間以内に施行することが望ましい.
  • 洗浄の1回量は200-300ml、排液が清明になるか、異臭が消失するまで繰り返す。
     
     
    今回は、EBMと中毒について議論が交わされた。認知症患者に処方するときには、起立性低血圧の有無を評価する。眠前に処方する。
    中毒については、個々の物質の起こす症状を記憶することは無益なので、疑ったら、病歴、身体所見が重要となる。
     
    (山本和利)