札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年5月31日月曜日

選択実習のまとめ

5月28日,札幌医科大学総合診療科の選択実習のまとめを行った。当教室から山本、寺田が評価者を兼ねて聴衆として参加した。
5名の学生さんは、松前町立松前病院(2名)、更別村国保診療所、六合温泉医療センター・西吾妻福祉病院(群馬県)、湯沢保健医療センター(新潟県)で3-4週間の実習をしてきた。2クール分をまとめての発表会である。まずパワーポイントで実習した地域の紹介した後、significant event analysisで取り上げた意義深い事例や課題研究を発表した。健康教育の場面をDVDに録画したものを供覧したり、お泊まり実習の発表があったりした。健康教育の内容は、高血圧や不眠についてであった。課題発表ではバスの運行を増加することで患者の受診動向がどう変わったかを年度で比較してくれた。和気藹々と発表はすすみ、あちこちから笑いが起こった。全員が充実した実習であり、満足度の高いものと評価してくれた。
2週間の必修実習と違って、実習施設の職員の中に溶け込むという意味では3週間以上の期間が必要であるという学生の意見が多かった。
御指導いただいた指導医の先生方、職員の方々にこの場を借りて感謝申し上げます。(山本和利)

札幌GPカンファランス

  5月28日、札幌で研修中の若手総合医の勉強会に参加した。はじめに熱傷の処置についての講義があった。10歳以下の子供の熱傷の原因は料理の手伝い中、親が抱っこしての飲食、カップラーメンをこぼした後に子供が這う、アイロンに触った、花火で、ライターで、等が多い。処置として、服はできれば脱がす。12度のぬるま湯で15分から3時間冷やす(氷水はよくない)。I度熱傷ならアロエは有効。乾かさないで被覆させておく。進行性なので深度の断定はしない。
  局所療法。創の被覆が第一である。ワセリンとラップで十分。浸出液が多い場合はポリウレタン。ガーゼはよくない。治りが悪い。顔面熱傷には薄いハイドロコロイドを用いる。浸出液は水で流す。治っても半年ほど色素沈着予防のため日焼け止めが必要。処置の基本。毎日シャワーで流す。石鹸でこすらない。ふやけて剥がれてきたら交換する。水泡は破らない方が治癒は早い。3cm以上は穿刺する。破れた水泡膜は取り除く。知っていると便利な知識。ワセリンはオリーブオイルで落としやすい。手掌の熱傷には外科手袋の利用が便利。予防も重要。子供だけで台所に入れない。飲食をしながらの受け渡しをしない。キャンプ、バーベキューは要注意等。
  次は症例検討。「専門医で診断がつかず紹介となった一例」である。徐々に進行する嚥下困難が主訴。患者さんから「総合内科は最期の砦」と言われた。食べると嘔吐するため4カ月で6kgの体重減少もでている。時間経過に沿って鑑別診断や必要な検査法が問われた。
嚥下障害を起こす疾患をレビューしてくれた。固体のみは機械的閉塞を疑う。発表した研修医のclinical pearl。「頻度、緊急度、重症度の高い疾患を常に念頭において鑑別診断を考える。鑑別の第一歩はやはり病歴と身体診察から。」
  このような勉強会を通じて総合医のレベルを上げ、社会にも認知してもらうようアピールしてゆく必要があろう。(山本和利)

2010年5月28日金曜日

旭川医大2年生の早期体験実習

  5月27日、札幌と旭川地区出身である旭川医大2年生7名が当教室を訪れた。旭川医大の早期体験実習の授業の一貫として、地域医療に関するインタービューを受けた。全員が黒のスーツ(男性はネクタイ着用)という就職活動を思わせるようなきちんとした身なりで現れた。事前にアポイントもあり、FAXでインタービュー内容も事前に知らせてくれており、教官からの指導がしっかりしていることが伺われた。「地域の現場を見てこよう」という主題で、総合診療科や総合内科を持つ札幌市内の病院や道庁にもインタービューに行くそうだ。私は「総合診療とは何か」「札幌の地域医療はどうなっているのか」について訊かれた。
  「総合診療とはまずはどんな訴えであっても診る覚悟で臨み、患者背景を重要視しながら、様々なリソースと連携して問題解決に向かう診療である」と答えた。また地域医療を崩壊させないためには「個々の医師が2割の時間を公共のために提供する覚悟としっかりとした国策(総合医の比率を増やす等)」が重要であることを強調した。予定の時間はあっという間に過ぎてしまった。最後に参加者全員で記念写真を撮って散会となったが、その写真の利用許可書にサインを求められその徹底ぶりに驚きもした。
  訪れた学生さんの目はキラキラと輝いており、私の話を真剣に聞き入っているのがヒシヒシと伝わってきた。いつまでの今の眼の輝きを忘れないで欲しい。(山本和利)

吉本隆明のDNA

  「吉本隆明のDNA」(藤尾京子著:朝日新聞出版 2009年)を読んでみた。これは著名人6人への吉本隆明についてのインタービューで構成されている。巻末の(著作発表年を中心としたと)断り書きのある吉本隆明略年譜が可笑しい。1996年 72歳 伊豆の海で溺れる、とある。このとき入院したのが仲田和正先生のいる西伊豆病院である。(その後の作品に溺れたことが影響を与えたということであろうか)
この中で中沢新一氏と糸井重里氏の章が私には大変参考になった。オウム事件で世間から批判され袋たたきにあった中沢氏が体験を振り返って「ある意味、死ぬほど苦しみました」と答えた言葉がズシンと来る。このような状況で本を次々と書きあげてゆく。吉本死を評して、思想の神髄がにじみ出るのは、生き方というより「たたずまい」ではないか、と。吉本隆明は安全な枠組みを完全に取っ払って突き進んでゆく。
糸井重里氏も挫折の人であったことがわかった。吉本隆明の本を読んでもわからないので読んでいないという。私もそうである。さっぱりわからない。彼は20年に及ぶ家族も交えた付き合いの中で、吉本氏を「逸らさない」魅力を持つ人と評価している。吉本隆明は彼の著作を読むよりも話を聞く人ではないかと思った。孤独と向き合い、人と人との新しい形のつながりを求める「心のあるよう」の人、と吉本を評価している。
この本(志を曲げず、孤独にジッと耐えてきた先人の生き方の本)は、今後の生き方に悩む者にどう乗り越えてゆくかの示唆を与えてくれるであろう。(山本和利)

Common Problem: よくある疾患、見逃しやすい疾患

  内科系総合雑誌Modern Physicianの2010年6月号で「Common Problem: よくある疾患、見逃しやすい疾患」という企画編集をしました。日常診療に役立つ自信作です。是非お手にとってお読みください。以下にその巻頭言を提示します。

 一般に診断の過程は、1)診断仮説の形成、2)診断仮説の修正、3)診断のための検査、4)原因の推理、5)診断の確認、の5つからなると言われている。臨床医は最初に、年齢、性別、人種、印象、主訴から診断仮説を形成する。その際臨床医は思いの外近道思考(ヒューリステックス)を用いていると言われる。すなわち疾患頻度よりも経験した類似症例や最近経験した印象的な症例から仮説を形成している。ベテラン医師の場合、その方法で大部分は正解にたどり着くが、その後の情報や検査結果を無視して最初の仮説の可能性を修正できないでいると(アンカリングの固定)、ときに間違うこともある。医療面接をさらに続け、身体診察情報を加味しながら診断仮説は修正されてゆく。そして治療をするだけの確信に至らなければ切れ味鋭い検査を依頼して、確定診断または除外診断を試みる。一度診断を付けたならばそれができるだけ単純に説明できるかどうか検証することになる(オッカムの剃刀の原理)。
 一方、臨床医は経験した症例を物語(illness scripts)として記憶し、必要に応じて診断に利用しているという意見もある。そこで本企画では、読者に診断の過程をベテラン医師と同様にたどってもらい、かつ利用可能な物語を増やしてもらうために、それぞれの愁訴についてCommon Caseの典型的な年齢、性別を記載のうえで問診、身体診察を中心に執筆してもらった。経験豊富な臨床医は患者から引き出した情報を用い、上述の5つの過程を経て効率よく診断する。学習者の診療能力向上にとって重要な点は、上級医から正解を教えてもらうことではなく、積極的に自分で考えて、それを上級医に話し、その根拠を述べる過程を通じて、自分の理由付けの過ちを修正し、一般論を理解することであると言われている。そこでベテラン医師の論理的な思考過程を追体験できるようにするために、New England Journal of Medicineのclinical problem solvingの症例呈示のように時系列で思考過程を記載してもらい、診断名はできるだけ最後までわからないように記述してもらった。紙面の関係で基礎的事項は最小限にして、最新の知見を日常診療に役立つようお願いした。
 同じ訴えであっても診断名が異なることはよくあることである。優秀な臨床家であっても少なからず失敗例を経験している。それを省察し、同じ過ちを繰り返さないよう努力した者が優秀な臨床家として生き残る。そこで頻度の高い疾患に紛れている見逃しやすい事例もPitfall Caseとして提示した。
 各項目の最後に、臨床医の知識と経験に裏打ちされた、現場での診断・治療に役立つ教訓をClinical pearl として記載してもらった。本企画が読者にとって今後の診療の糧になれば幸いである。 (山本和利)
<参考文献>
J. Kassirer, J. Won, and R. Kopelman:LEARNING Clinical Reasoning 2nd Edition、Lippincott Williams & Wilkins、2010

2010年5月27日木曜日

科学性と人間性

 5月24日、北海道大学医学部2年生を対象に「科学性と人間性」という講義を行った。「医療と社会」に次ぐ今年度の第2回目。
導入は私自身の若かりし日に実践した静岡県佐久間町の地域医療の紹介から入った。その後、オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』に収録されている、診察室では「失行症、失認症、知能に欠陥を持つ子供みたいなレベッカ」、しかし、庭で偶然みた姿は「チェーホフの桜の園にでてくる乙女・詩人」という内容を紹介した。サックスは言う、「医学雑誌の支配的テキストは苦しんでいる人を必要とする。しかし、その人々の個別的な苦しみは認知されえないのである」と。
次にAntonovskyの提唱する健康生成論(サルトジェネシス)を紹介。病気になりやすさではなく、逆に健康の源に注目。健康維持にはコヒアレンス感が重要らしい。1)理解可能であるという確信「こんなことは人生にはよくあるさ」。2)対処可能であるという確信「なんとかなるさ」。3)自己を投げ打つに値するという確信。「挑戦してやろうじゃないか!」
医学教育における視点の変化(ロジャー・ジョーンズ、他:Lancet 357:3,2001)を紹介。
研修医、総合医には、持ち込まれた問題に素早く対応できるAbility(即戦力)よりも、自分がまだ知らないも事項についても解決法を見出す力Capability(潜在能力)が重要であることを強調した。その根拠として、Shojania KGの論文How Quickly Do Systematic Reviews Go Out of Date? A Survival Analysis. Annals of Intern Med 2007 ;147(4):224-33の内容を紹介した。効果/治療副作用に関する結論は,系統的レビューが発表後すぐ変更となることがよくある.結論が変更なしに生き延びる生存期間の中央値は5.5年であったからである。(5年間で半分近くが入れ替わる)
N Engl J Med の編集者Groopman Jの著書 “How doctors think” (Houghton Mifflin) 2007を紹介。60歳代の男性である著者が右手関節痛で専門医を4軒受診した顛末が語られている。結論は“You see what you want to see.”(医師は自分の見たいものしか見ていない)。
ここで医学を離れて、考古学の世界「神々の捏造」という本を紹介。2002年10月、イスラエル。イエスの弟、ヤコブの骨箱が「発見」されたが、本物かどうか科学的に検証できるのか。
次に「狂牛病」の経緯を紹介。1985年4月、一頭の牛が異常行動を起こす。レンダリング(産物は肉骨粉)がオイルショックで工程の簡略化により発症を増やしたと考えられる。1990年代に英国で平均23.5歳という若年型症例が次々と報告。社会のちょっとした対応の変化が医療に影響する。
次に農業の話。Rowan Jacobsen「ハチはなぜ大量死したのか(Fruitless Fall)」を紹介。2007年春までに北半球から四分の一のハチが消えた。何が原因か科学的に検証してゆくが、その結末は?
授業の後半は、ナラティブの話。6つのNarrative要素:Six “C”を紹介。授業はまだまだ続く・・・。
学生さんの講義に関する感想文を読むと、医学以外の話が好評のようだ。ほとんどの人が今後の生活の仕方の参考になったと答えてくれており、講義をした者として大変うれしい。(山本和利)

臨床疫学大学院(2)

 6月から当講座の心理のカンファランス等に、心理学に興味を持つ大学院生が副科目の授業の一貫として参加することになった。

 純粋な医学以外についても機会を見つけて一緒に勉強をしてゆきたい。(山本和利)