札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年9月29日日曜日

第6回FLAT地域医療体験キャンプ

92728日、留寿都地区で第6回FLAT地域医療体験キャンプを行った。学生の参加は18名。総勢23名。


留寿都到着後、各班に分かれて学習計画による自己学習開始。

夕刻、大泉先生の講演、三線の演奏。

翌朝、糸谷先生の講演。

夜はノンアルコールで懇親会。

 

学生発表の内容

1班「地域で働くとはどういうことか」

来る前のイメージは遊園地が主。村でさびれている、田舎で不便。実際は、建物がきれい、自然が多い、意外に便利で住みやすそう、ご飯がうまい。

<町の人の観点>

・腰痛がひどくて通院、買い物がつらい。医師は多さしいが、休診日の発病が心配。

・生活はしやすい。買い物には困らない。休診日に対応してくれた。

<役場の観点>

・医療に満足している。

・休日対応もできている。

・施設をバリアフリー化したい。

<医療者の観点>

・やりたいことができている。住民は受け身的。

・自然豊かで夏は過ごしやすい。

・住民のニーズを知りたい。

・人口を減らさない施策を希望。

<感想>

・地域を理解して医療に携わるのが大事。

 

2班「留寿都を通じての地域の医師像」

・札幌からそう遠くない。1871人。農業、じゃがいも。ルスツ豚、「道が山の麓にある」、デイサービス。住民との会話を寸劇で表現。

役場調査:12歳以下の医療費は無料。農業従事:30%

医師から見た留寿都:一か所で一次医療を担う。診療所内部を紹介。外来診察、午後、訪問診療、予防接種。患者平均35人。院内処方。救急車がすぐに来ない。出産は地地域で行う、薬剤師がいない。地域医療志向の医師が2名。専門家になるよりジェネラリスト志望。ワークシェアをして様々な地域(被災地)を支援している。

<感想>

・不便さを受け入れて生活していることが新鮮であった。

・ワークシェアをする診療所の実態を知り驚いた。

・行動力のある医師を目の当たりに見て、感銘深い。

 

 

3班「産業と医療の関係性」

観光と農業の町。診療所よりもリゾートの方が古い(一度倒産)。

村人のイメージ:リゾート。リゾートから医療への経済波及効果は不明。税収は25億円、リゾートから5億円。若者、外国人患者が増えたが、大きな経済的恩恵は受けていない。

診療所の特徴:子供が多い。診療所の存在が重要。

<感想>留寿都村は大丈夫か?町おこし的な企画がない。離島などに比較して住民は比較的満足している。「地域医療」という言葉からの囚われが消えた。

 

4班「医師数は足りているのか?」少ないが苦情はなし。医師2名で心強い。デイケア、デイサービスは近隣で、高齢者、農家に保健師を派遣。新生児の家庭に離乳食教室。

「医療への満足度は?」ホームドクター的、病院が限られているのが不満。冬の通院が大変。

「恵まれているのではないか?」後志は人口10万人あたり、7番目。札幌まで75km。アクセスはよい。コンパクトな70%が集中した住宅地。

<感想>住宅地の集中で住民のつながりがある。医師と患者とのつながりがる。都市にアクセスがよい。キーワードは繋がり。成功している農家が多く、「安心して生活できる基盤」があれば大丈夫であろう。

 

<全体の感想>

・先輩たちがいて、1年生が積極的にかかわり、屋根瓦形式が有効であった。

・地元の医師からは、地元の声が聞くことができてよかった。5年前来てくれた1期生2名が来てくれてうれしかった。

・地域や人を知ろうという視点が素晴らしかった。

・若い人がどろどろと来てくれると町に活気が出る。

(山本和利)

 

2013年9月25日水曜日

9月の三水会

918日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:1名。他:6名。

 

ある研修医の経験症例。糖尿病の患者が嘔吐。急性胃腸炎以外を鑑別に挙げる。検診で胸部XPをチェックされた患者。頸部腫瘤で受診し、甲状腺腫であった患者。上気道症状を訴える50歳の糖尿病患者のCRP>20、胸部XPで肺炎像あり。テオドールによる動悸。HbA1cは改善したが、体重が増加した糖尿病患者。往診例:肺炎と喘息発作。C型肝硬変の下腿浮腫。肝硬変と心不全の浮腫の違いは?門脈圧亢進では門脈より下にしか浮腫はでない。

 

研修医から振り返り1題。

 自宅看取りを終末期ケアでの家族コミュニケーションの認識できた一例。

長女、長男と暮らす90歳の慢性腎不全の女性。転倒をきっかけに入院。退院時クレアチニン:6.4。透析は希望しない。長男は母親の状況を理解していない。

長女一人で介護。呼吸苦が出現。利尿剤で改善。多職種カンファランスを開催。長男は苦しいときには入院を検討した。毎日の食事、飲水量を記載。やがて無尿、昏睡となる。自宅で看取るか、入院するか家族の意見が分かれた。結局、自宅で永眠された。

 お悔やみ訪問をした。癌の患者はお悔やみ訪問をしていない。家族から透析をすべきであったかどうかの疑問が出た。

eGFR<10ml m="" span="">で透析をしないと、予後11か月である。どこで看取るかよりも、どのように看取るかが重要である。残された家族へのグリーフケアも重要である。家族の感情を受け入れる、話をさえぎらない、安易に同調しない、自分の体験を強要しない、の4点が大切である。家族に先立たれた人は様々な疾病リスクが高まる。

 

クリニカル・パール:終末期ケアでは家族コミュニケーションが重要である。当番制などシステムを作って緊急時の対応体制を構築すべきであろう。

 

今回も家庭医の視点で、終末期ケアについての重要さを発表してくれた。

スキルアップ・セミナー



問診とバイタルサインでここまでわかる危ない病気③ と題して、主に学生向けに講義を行った。

今回はショックをきたす疾患を想起させ、その疾患の診断に至る病歴と身体所見・検査と、除外に至る病歴と身体所見・検査を考えてもらい、実際にショックの患者が来た際にどの順番に病歴を聴き、身体所見を取り、臨床検査をオーダーするかを実践的に考えてもらった。

90分の長丁場だったが、興味を持って取り組んでもらえたようだ。

(助教 松浦武志)

2013年9月13日金曜日

指導医養成講習会(ニポポ)


 9月78日、第9回北海道プライマリ・ケアネットワーク 臨床研修指導医養成講習会を企画し、チーフタスクフォースとして参加した。当日、ガトーキングダムサッポロ会場で700から打ち合わせ。受講者は20名。


まず山本和利の挨拶、タスクフォース紹介後、山本和利のリードで「アイスブレイキング」。偏愛マップを使って、雰囲気を和らげた。

続いて勤医協札幌病院の尾形和康氏の主導で「カリキュラム・プランニング」を120分。従来型カリキュラムのミニレクチャー。学習プロセスの解説。教育目標の分類(知識、態度、技能)とそのレベルの説明(知識:想起→解釈→問題解決、態度:受け入れ→反応→内面化、技能:模倣→コントロール→自動化)。一般目標(GIO)と個別目標(SBOs)の関係を説明。SBOsをすべて達成すればGIOを達成することができる。CVカテーテルの挿入」等の課題を各グループで演習。教育目標はただ作ればよいわけではない(RUMBA:real, understandable, measurable, behavioral, achievable)。教育目標はスマートに(SMART:specific, measurable, achievable, relevant, time-bound)。学習方略の解説。学習成果は、人に教えると90%、講義を受けると5%が身につく。学習方略を選択するときの選択の仕方。順序、方法、組み合わせ、場所、道具、時間、経費等を考慮する。
評価の解説。「学習者は自分がどのように評価されるかによって学習態度を変える」すなわち、評価は人をつくる。研修分野別マトリックス表を使ってグループ作業。普段指導している科に研修医が回ってきたという設定で、指導医、研修医役に分かれて、ロールプレイ。指導医が背景、研修できる内容を説明する。その後、研修医は過剰な希望を述べる。指導医はRUMBA,SMARTを意識して、研修医の希望をお互いが納得できる最終的な研修目標に修正する。

江別市立病院の日下勝博氏の主導で「上手なフィードバックをしよう」のセッション。指導医としてフィードバックにおいて悩ましいと感じかことをグループ討議。自己分析能力の高い研修医、生真面目だが気づきの少ない研修医、能力以上に自己評価が高い研修医という3シナリオを用いたロールプレイを行った。3人一組でのロールプレイは研修医役、指導医役、評価者役をそれぞれ1回ずつ(緊張しやすく技術が未熟な研修医、当直明けで眠気を堪えて外来研修を受ける研修医、問題をあちこちで起こすのに自信満々の研修医の3シナリオ)。ここでは指導医としての質を上げることが目的なので、指導医役には、シナリオに沿った役つくりよりも、研修医への最良のフィードバックを実践するという前提で指導を行った。

第一日の午前の日程を終了したところで、写真撮影となった。筑波大学から依頼された(指導医のストレスについて)アンケートに応えてもらった。

昼食後、札幌医大松浦武志氏の主導で「SEAの手法を活かした教育カンファランス」セッションを行った。はじめに成人教育理論についてのミニ講義。人は何から学ぶか?先輩の背中、プロジェクトに参加して、挫折から、という意見がある。その後、「嘔吐、発熱で救急受診した60代男性」についてヒアリハット・カンファランスを研修医に実演してもらった。急性胃炎として対処したが、最終的に脳出血であった。75枚のスライドを使って精力的に発表された。「意識障害をなめるな」「嘔吐は消化器疾患だけではない」「忙しいときこそ一歩引いて自分を客観視する」という学びを得た。最終的な総括として、「診断エラーを防ぐためにシステマティックなアプローチを意識する」最後に自分の施設で振り返りセッションを行うにはどうしたらよいかをグループで話し合ってもらった。


続けてむかわ町穂別診療所の夏目俊彦氏の主導で「5マイクロスキルの実践」セッション。一番の問題は、研修医が考えて答える前に、指導医が答えを言ってしまうことである。今回お勧めのマイクロスキルは5段階を踏む(考えを述べさせる、根拠を述べさせる、一般論のミニ講義、できたことを褒める、間違えを正す)。外来患者シナリオ3つを用いて3人一組になってロールプレイ(シナリオの読み上げ)を行った。最後は、自分たちでシナリオを作成してもらい、いくつか自信作を発表してもらった。

続いて月寒クリニックの寺田豊氏に主導で「community-oriented Primary CareCOPC)を用いた地域医療の教え方(community-based medical education)」セッション。

まず、病院の地域研修プログラムについて各グループで話し合ってもらった。

CBMEの3つの目標

1.総合診療・家庭医療について学ぶ

2.総合診療以外の分野を学ぶ

3.多数の分野を並行して学ぶ

 

12の秘訣

1.全人的・包括的・継続的な医療を教える

2.地域の医療スタッフがロールモデル

3.カルチャーショックを振り返りにつなげる。

4.カリキュラムを与える。

5.学ぶ時間を確保する。

6.サポート・ガイダンス、カウンセリングをしっかり行う。

7.ポートフォリオを利用した評価を行う。

8.実習教材の工夫をする。

9.体験から学ぶ。

10.                   地域医療スタッフから生部。

11.                   社会的な役割を学ぶ

12.                   地域との関わり合いを強化する。

これらについて具体的な事例をあげながら進められた。

次にロンドン大学モデル(高次医療機関と家庭医診療所のセット)とケンブリッジモデル(都会から離れた診診療所で研修)を紹介。Asset-based community development(ABCD)を紹介。5つのassets。①個人のスキル、②ボランティア組織、③機関、④経済的洗剤能力、⑤土地・物理的長所。

新しい用語が一杯で参加者はついていけただろうか、やや心配。

「北海道における地域医療の現状と道の取り組みについて」と題したセッションで北海道保健福祉部の石井安彦参事が講演された。今回は、北海道の医師不足を強調された。指導医の役割も強調。高齢医師が増えているが、若い医師は減少している。地域偏在の話。札幌圏内に集中。北海道の取り組みを紹介。「地域医療再生計画」を紹介。道内の研修医の実態に加えて、専門医制度についての最近の動向が示された。都市部の定員は減らしている。北海道は空定員が多い。3年間の研修医は56.3%北海道に残っている。研修後、小児科、産婦人科は志望者が研修後低下している。研修医は指導体制を重視して選択している。

そのまま夕食を摂り、懇親会に移行。

二日目、山本和利が「臨床研修制度と専門医制度」についてのミニ講義を行った。臨床研修制度についての問題点をグループ討議してもらった。参加者の大部分が問題があることは認識した上で、現制度を是認していた。専門医や専門医制度の在り方についても討議してもらった。新たな専門医認定機構が設置されるが、国が関わっていない等、注意深く見守っていく必要があろう。

江別市立病院の阿部昌彦氏主導での「教育の評価」は、3シナリオを準備していずれか1つのシナリオに沿ってロールプレイを行った。最初に初期研修医評価のための指導医会議(指導医、シニア研修医、看護師長、看護主任、ソーシャルワーカー役)を模擬体験した。最後に、自施設で行っている360度評価を紹介された。自己省察の大切さを強調された。

最後はクリニックあずまの大門伸吾氏の主導で「ティーチング・パールを共有しよう」のWS。参加者各自が得意ネタで10分間講義を白板で行い、そのやり方へのフィードバックをしてもらった。テーマは、高齢者の発熱(4CD VP3)、大腿骨近位部骨折、漢方は体にやさしいか、リウマチ、外科的気道確保、ヘリコバクター・ピロリ菌、意識障害,慢性下痢、肺がんが疑われた場合の外来診療の流れ、US health care system primary care midplevel providor(ナース)、切断肢、気分障害、いつリウマチを疑うか、ERで急性冠症候群を見逃さない、心不全、アルコール依存症、睡眠障害、慢性疾患の外来診療のコツ、エコー下CVカテーテル挿入のコツ、外科研修(手術)、等であった。和気藹々とした雰囲気で講義は進んだ。

総括として、参加者の感想をもらい、受講者代表に終了証を手渡して解散となった。来年度、ブラッシュアップで企画を試みたい。(山本和利)