札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年6月24日月曜日

医学史 イリッチ/オスラー


本日の医学史のテーマはイリッチとオスラーであった 

 イリッチはおそらく多くの人にとって馴染みのない人だとは思うが、「医原病」という概念を提示した宗教家(元司祭)である。

 
彼の主張は難解でややこしい。

「健康」は「医療」支配されている。

「病気」は「医療」によって作られている。

一見すると矛盾するような主張である。


昨今の日本では「患者よ、がんと闘うな」を著した近藤誠などに通じる主張である。

 
医療の現場を10年も経験すれば、おそらく彼の主張は、すべてが正しいわけではないが、ある程度身を持って納得できる。しかし、これまで、医療に無縁であった20歳そこそこの若者達にこの思想は理解できるだろうか?

 
こうした新しい概念・難解な概念を短時間で伝える際は、わかりやすい「喩え」を使うことが必須である。どのような喩えを使うかが発表の良し悪しを決めるだろう。

そういう点ではこの班はやや迫力不足な感が否めなかった。

発表班のメンバーも同じ20歳そこそこの若者であるため難しいところではあるが、、、

抗がん剤によって寿命が半年伸びたとして、その伸びた半年が、治療の副作用に苦しむ病室内での半年だったとしたら、これは医療の進歩と言えるだろうか?

出生前診断などという技術が発達し、その検査の不確実性のために、不必要に堕胎される胎児が急増する。これは果たして医療の進歩と言えるのか?

また、病気の概念が新しく生まれるたびに、その病気への恐怖に苛まれ続ける人生は医療の発達と言えるのか?

おそらくイリッチは、多くの人が盲目的に正しいと考えていることに対して、立ち止まって「それは本当に正しいことなのか?」と考えてみる必要性を訴えているのではないだろうか?彼らの発表を聞いてそう思った。

 発表が難解であったにもかかわらず、会場からの質問はかなりあった。大変嬉しいことに、ここ最近の医学史の授業ではこうした傾向が定着しつつある。司会班は討論の時間のためにアンケートを実施するというネタを仕込んでいたが、それを披露する時間がなくなってしまった。嬉しい誤算だろう。いい傾向だ。

後半の発表はオスラーであたt

オスラーの生い立ちと、影響受けた人物を順序よく紹介したあとに、オスラーの功績である臨床現場での医学教育の確率と、内科学書の編纂について述べ、最後にオスラーの死生観について発表していた。

 この班の特徴は、明確な役割分担だろう。おそらくスライドを作る人、発表する人、調べる人、と明確に分かれていると思われた。発表する3人はスライド23枚でくるくると発表者を代えていた。これは今までにないパターンでどのような効果を期待しているのはわからなかったが、マイクの受け渡しにやや手間取るところもあったが、概ねスムーズに行っていた。ただ、残念なのは、発表内容が原稿を読んでいるような印象があったことだ。

 また、この班の発表は非常に盛り沢山で、多くの内容を含んでいたため大変迫力があった。オスラーがいかに医学の教育に情熱を捧げたかがよくわかった。また、セシルやハリソンに並ぶ偉大な内科学書を編纂したこともよくわかった。

 惜しむらくは、どの功績も同じような調子で発表したために、どの点について一番伝えたかったのかという焦点がボケてしまったことだろうか? 

 しかし、30分という短い時間の中でたくさんのことをコンパクトにつたえようという努力は買いたいところである。

発表の最後にオスラーの名言をジョンレノンの「Let it be」にのせて紹介していたのは良かった。ある人物の人となりを紹介するのに、その人の名言を紹介する方法はよく用いられる。簡素にして端的にその人物を紹介することができるからである。

二十五歳まで学べ、四十歳まで研究せよ、六十歳までに全うせよ

医療は、使命であって商売ではない

心に刻んでおきたい。

司会班は、LINEを利用した意見集約の方法を試みていた。日本人は、人前で自分の意見を「発言する」ことが苦手である。そのため「発言する」のではなく、「文字情報で発信する」形態を取ると意見集約はうまくいくことが多い。実際Twitterや掲示板を利用して質問を受けつける講演会もよく行われているし、NHKでもTwitterでリアルタイムの視聴者の意見を紹介する番組もある。

今までにない斬新な試みで、非常にいいと思う。ただ、やはり、相手を不快にさせるような発言なども紛れ込むため、こうした情報をうまくコントロールする技術が司会班には求められる。今回は比較的うまくいっていたように思う。

また、驚くべきことに医学部1学年に115人近くの学生がいるが、ほとんどの学生がLINEに登録しており、使い方も熟知しているのである。

IT技術の若い人への浸透力にはすざまじいものを感じざるを得ない。今後、こうしたIT技術は、その功罪をよく見極めることが必要ではあるが、積極的に活用していきたいものだ。(助教 松浦武志)