札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2009年5月12日火曜日

講義・講義・講義の4月

4月13日(月)、札幌近郊の病院で新患外来。疾病(disease)を持つ患者さんが思いの外多い。大学で行うときと診療スタイルを変える必要があり、かえって新鮮な体験である。心不全の70歳代女性、虫垂炎疑いの60歳代男性、糖尿病コントロール不良(HbA1c:10%)の慢性咳そうの60歳代女性、など20名ほどを担当。

午後、保健医療学部2年生50名に「医療経済学」の講義。これは5年以上前に、当時企画をした経済学の教官が栄転してしまったため札幌医科大学内部に講義を担当できる者がいなくなり、急遽、EBMで費用効果分析を私が行っているという話を聞きつけた保健医療学部の教官に頼み込まれ引き受けたという曰く付きの講義である。学生に調べさせて発表させればよいだろうと安易に引き受けたが、当時は4年生対象の選択授業であったためあえて選択する必要性がないらしく、選択した学生はたった1名であった。結局私自身が本を数十冊買い込んだり図書館で借りたりしながら急場しのいだのであった。

「あなたがインフルエンザに罹患したらタミフルを服用するか」という問いかけをして、グループ発表をしながら講義を進めていった。後半は、エンデの「モモ」を引用して、利子が本当に必要なのかどうかを考えてもらい、世界・日本各地の地域通貨を紹介して講義を終えた。保健医療学部の講義は一方通行の講義が多いらしく、私のやり方は非常に好評であった。内容についてはホームページを参照のこと。

4月14日(火)、午前は大学で新患外来。インフルエンザ検査の医学生が1名。午後、教室スタッフが行う医学史講義(「プレゼンテーションの仕方」を学ぶ)を見学。

4月15日(水)、午前は再診外来25名。午後、カンファでニポポ研修医向け講義を行う(教室長の提案で本年度より突然、私がやるように言われたため)。1年間、毎月1回、12回に分けて30分程度行う次のような企画を立てた。また、重要な論文や総合診療に必要な書籍を紹介するようにした。

■日常的な診療能力

1.医療へ越境する住民ニーズに応える

2.疾病はないが虚弱な高齢者を診る                                      

3.疾病を求めて受診する患者を診る

4.予防・健康増進もする

5.小児も診る

6.緩和ケアもする                                                    

7.在宅ケアもする

■問題への対処力

8.臨床疫学的な判断をする

■コミュニケーション能力

9.家族との良好な関係を構築する:

■医療マネージメント力

10.地域を活性化する

■臨床現場での教育力

11.教育方法に精通する

■生涯学習能力

12.EBMを実践する

第1回目なので、家庭医療・総合診療の基本となるEngel GL: The need for a new medical model: a challenge for biomedicine. Science 1977;137:535-44、を図書館でコピーし配布し、概説を述べた。恥ずかしながらこれまで何十回と講義・講演の場でこの文献を取り上げながら全文に目を通していなかった。書籍としてはJoachim P. Sturnbergsomato-psycho-socio-semiotic modelとして提唱し、EngelBiopsychosocial modelを発展させた理論書である「The Foundations of Primary Care daring to be different」(Radcliffe, 2007)を紹介した。詳細はホームページ資料を参照。

 講義終了後、札幌駅付近の自治労会館に移動し、北海道内市町村の民主党議員に「地域医療の課題」についての講演をした。早めに行って北海道では非常に有名な国会議員の講演も拝聴した。威圧感はなく、やわらかな口調で、道路・住宅・教育・医療など様々な質問に答えてゆく内容は門外漢の私にも大変に勉強になった。私の講演はつかみとして、ドキュメンタリー映画の話から入った。眠る議員も少なく、時には笑いもゲット。終了時には大きな拍手をいただいた。「医師は20%の時間を公共のために割くべきである」という私の主張が政策に反映されることを祈りたい。具体的な内容についてはホームページを参考にされたい。

 4月16日(木)、予定は会議が一件のみ。一日講義資料作成を予定していたところ、突然、札幌医科大学の卒業生から学会発表論文の統計処置について問い合わせの電話が来る。「心臓カテーテル治療であるバルーン拡張後の突然冠動脈血流が低下(slow flow現象)を予測できるかどうか後ろ向きに検討する研究であり、3つの要因がslow flow現象と単層間があると結論づけて演題を出してしまったが、その後よくよく考えてみると幾つか疑問点が生じたので、意見を求めたいというものである。臨床疫学の診断の章をFAXしたり、その後、FAXで統計処理をしたデータをみながら電話で会話をしたりと忙しい時間となった。

 FAXへの取り組みが一段落したところで、北海道医療大学から頼まれた「エビデンスに基づいた医療提供とは何か?」という講義の原稿、e-learning課題の作成を行った。そして少し時間に余裕があったので、数ヶ月放置していた「日本学術振興会審査委員候補者データベース」にアクセスして入力を行った。

 4月17日(金)4年生にEBMの授業。診断編1を行う(詳細はホームページを参照)。午後、修士課程の入学者に「臨床疫学入門 科学的とはどういうことか」を講義する(詳細はホームページを参照)。

 4月18日(土)、NPO北海道プライマリ・ケアネットワークの理事会・代表者会議・総会・研修発表会・懇親会に11時から19時まで参加。その後、反貧困映画祭と銘打った映画を2本観て、23時帰宅。

 4月19日(日)、たまたま何も予定がないので、市立図書館に立ち寄った後、途中休憩を入れて4時間に及ぶ映画を鑑賞する。

 4月20日(月)、午前の診療支援を12時で打ち切ってもらい、札幌に急いでもどる。1330分より「医療経済学」の講義。外来で診療した女性患者を提示してグループで話し合ってもらう時間をとった。保健医療学部の学生にはこのスタイルが好評である。夕方、学長、医学部長を交えた特別推薦枠入学1年生のオリエンテーション。その後、反貧困映画1本鑑賞。

 4月21日(火)、午前、新患外来を担当。昼休みに医学史の発表について指導担当となった1年生と打ち合わせ。夕刻、道東地区の町立病院院長と面談。

 4月22日(水)、EBMの診断編の講義。ベイズの定理を元に、2×2表から検査後確率を算出する演習と検査前オッズと尤度比から検査後オッズ算出の実習を行う。教室を変えて修士課程の新入生に当教室の研修内容について英語のスライドで説明を行った。一部を紹介すると

Our Department was established in 1999.

 Its mission is to make a significant contribution to community medical care in Hokkaido.

The Department has two primary goals:

one is to produce primary care physicians through sound, systematic, undergraduate and graduate medical education;

the other is to promote research on community medical care, general medicine/practice, clinical epidemiology and holistic medicine.

 4月23日(木)、朝、プライマリケアレクチャーに参加した後、講義資料作りに勤しむ。札幌市内の病院長の面談を終えて、病院運営協議会、教授会に出席した。

 4月24日(金)、4年生にEBMの授業。診断編3を行う(詳細はホームページを参照)。夕刻、寺島実郎氏の講演会の後、特別推薦入試合格の学生と食事をしながら利尻町中央病院院長中川紘明氏の地域医療の講義を拝聴した。

 4月27日(月)午後、保健医療学部で「医療経済学の講義。

 4月28日(火)、日帰りで和歌山医大の5年生の「地域医療の現状と取り組み」の講義。

 4月30日(木)、午前は地域の病院の診療支援をし、午後、1年目の臨床研修医と受け持ち患者の問題に答えながら、総合診療について講義。

 4月中、いろいろな形式のものを合計すると15回講義をしたことになる。講義に始まり講義で終わった1ヶ月であった。

(山本和利)