札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年1月28日金曜日

雑食動物のジレンマ(1)

『雑食動物のジレンマ ある4つの食事の自然史』(マイケル・ポーラン著、東洋経済新報社、2010年)を読んでみた。アマゾンにおける2006年ノンフィクション部門の売り上げ第1位である。

あるテレビ番組の影響で米国の食卓から忽然とパンが消えたという。米国全体が摂食障害に病んでいる。ヨーロッパでは体に悪いと言われるものを食べていても幸せそうである。

第二次世界大戦末に起きた食物連鎖の産業革命が、その仕組みを大きく変えてしまった。
食の問題を3部に分けて記述している。

第一は「工業的食物連鎖」である。トウモロコシが現代の食生活の要である。人間は食品を作るために驚異的な才覚を発揮するが、同時にその技術が自然と対立する。
食物連鎖の起点を探ってゆくと、米国中西部のトウモロコシ栽培地帯の農場にたどり着く。米国の45,000の商品のうちその1/4にトウモロコシが入っている。トウモロコシは光合成によって炭素原子を4つ含む有機物を作るそうだ(C4植物)。水が少なく高温の地で有利であり、C4植物は炭素同位体13Cを多く取り入れる。米国人はその摂取量から「歩くトウモロコシ加工品」と言われても仕方がないほどである。トウモロコシは自分の力だけで繁殖しにくいが、それに人間が力を貸した。品種改良の技術によって生産性が向上したが、一方で農家は毎年、新しい種を買わなければならない。収穫を増やしたい農場主は最新の技術を取り入れるが、結局は生産性が向上しても恩恵を受けるのはその技術を売った企業である。その結果、他の植物が消え、動物も農場から消えた。農民の言葉、「トウモロコシをつくるということは、ただトラクターを運転して農薬を噴霧することである」と。また窒素固定法を手に入れて農場の生態系が静かに変わってしまった。化石燃料から作られた合成窒素の半分以上はトウモロコシ栽培に使われる。問題として、余分な合成肥料は蒸発して酸性雨となり地球温暖化を進める。過剰生産と価格の低下が問題である。穀物倉庫が問題を複雑にしている。農務省から不作時には補助金が出る。少数の企業だけがトウモロコシ流通に関わっている。

牛の体重を効率よく増やすために、膨大な量のトウモロコシが使われる。トウモロコシを食べて育った牛の肉(霜降り)は人間の健康によくない。牛(タンパク質製造機)にも不健康である。そこで牛の健康を維持するために抗菌薬が投与されている。

トウモロコシは加工され、コーンシロップになる。米国の加工食品で大豆とトウモロコシを使っていないものはまれである。名目上は自然な原材料から作られ、基本的な還元主義的原則は守られるが、その実態はどうか。コーンシロップの年間消費量が増加している。大量の清涼飲料水(ジャンボサイズ・コーラ)の販売。人間は大量に食料を出されると30%余分に食べてしまうという。ファースト・フードには石油が原料の抗酸化剤(TBHQ)が含まれている(5gが致死量)。危険な食料である!

2000年、世界で過剰栄養人口が10億人、栄養不良が8億人という報告がある。米国の食は病んでいる。その米国が世界の食を支配している。こんな世界でよいのか。食の問題に女性があちこちで立ちあがっているが、仕事人間の男たちは無関心であったり、揶揄したりしているが、そんなことでよいのだろうか。2部、3部に続く。(山本和利)