『我的日本語』(リービ英雄著、筑摩書房、2010年)を読んでみた。
名前から推測すると日本人の血が入っているのかと思っていたが、そんなことはないようだ。若い時に父親の仕事の関係で日本に来て日本語に興味をもって新宿に飛び込んだという。
万葉集に魅せられて、日本語で本を書くために米国での教授職を捨てたようだ。万葉集を日本語で読むよりも、著者の訳した英語の方が私にはわかりやすかった。例えば、持統天皇の「春過ぎて夏来るらし白妙の 衣乾したり天の香具山」を訳すために、現地に赴いている。香具山が山どころか小高い丘のようだということでhillと訳している。ひとつの言葉も疎かにせず現場主義を貫いているところがすごい。
母語以外で書いている作家、ドイツ語で書く多和田葉子、英語で書くウラジミール・ナボコフ、英語で書くサルマン・ラシュディ、等を取り上げて言語とアイデンティティについて考察している。
“アメリカ合衆国が被害者となった“2001年9月11日についての考察も面白い。
ひとつのことに打ち込んだ人の生きざまやその考察は、読むに値する。著者の本『星条旗の聞こえない部屋』『我的中国』『千々にくだけて』「越境の声」『仮の水』『延安』等を読みたくなった。(山本和利)