札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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2011年1月11日火曜日

患者主体の診断 その3

『Patient-Centered Diagnosis』の第3章、患者主体の診断に関する原理の後半である。

前回は妥当性について記載した。今回は、再現性である。

患者の再現性(Patient reliability)。2.3週間おいて同じ質問をしたとき、患者から同じ返事が返ってくるかどうかをみる。その評価は偶然を差し引いた一致率でみる(κ値)。

医師の再現性(Doctor reliability)
同じ患者を別々の医師が診察して意見が一致するかをみる。前立腺がんを疑う場合を提示。専門医とPC医では異なる。症状や前立腺の大きさ、PSAなどを加味してPC医は専門医に紹介するかどうか決めるが、専門医には前立腺の大きさは自明なことであるので、大きいことはあまり参考にしないかもしれない。それよりも硬さや可動性を問題とする。PC医にこれらの専門医の決断法を取り入れさせようとすると問題が起こる。PC医間のκ値が高くならないからである。

患者主体の診断過程(Patient-centered diagnostic processing)
複雑な検査をしても限界があることを認識することが重要である。確定や除外のために行った検査情報をひとまとめにして評価すべきではない。

ベイズの定理を取り入れる(Adopting a Bayesian approach )
式で書くとPosterior odds = likelihood ratio * prior oddsとなる。これは検査の確率は、検査前の可能性に検査の切れ味を加味して得られるということを表している。
ただこの原則を一律に適応しにくい。同じ症状、同じ検査結果であっても、プライマリケア設定の方が二次・三次病院の患者よりも冠動脈疾患の可能性は低いからである。
検査前確率を設定するとき、anchor biasがかかる。そこで1985-1995年にオランダの54名の家庭医のグループが「咳」「息切れ」「倦怠感」「腰痛」情報を集めた。例えば、息切れ患者が15-24歳の場合、急性気管支炎の検査前確率は18.1%、65-74歳の場合、33.5%である。

非特異的な腹痛であっても複数の情報を組み合わせること(Clusters of clinical information)で、決断に役立つ。
癌の可能性について、65歳以上の男性の場合3%だが、非特異的な腹痛が加わると18%に、さらに体重減少があると50%に、ESR>20mm/hなら75%となる。

Paukerとkassirerが「治療閾値」のいうアイデアを導入した。医師は、治療するかしないかの判断に「検査」を用いる。検査によって結果が陽性になり、計算の結果「治療閾値」を越えれば治療をするし、越えなければ控えることになる。胸痛を訴える患者についてどうするか、軽度の貧血のある老婦人に大腸内視鏡を勧めるかどうか、様々な場面で決断を迫られる。

様々な場面で時を有効に使うことが重要である。英国の一般医は一人の患者に平均47分かけている。米国で行った500名の患者での研究では、熱や倦怠感、痛みなどの非特異的な症状の70%は2週間以内に改善し、残りの60%も3カ月以内に軽快する。(山本和利)