7月21日、広島市で行われた日本医学教育学会の緊急報告「放射線障害‐医学教育の中で伝えるべきこと」を拝聴した。演者は広島大学原爆放射線医学研究所の神谷研二所長である。(福島県立医科大学の副学長でもある)
東日本大震災・福島第一原発事故後、日本中の住民が放射線について不安を持っている。放射線被害について、国民は本当に理解されているのか。放射線基礎医学教室は激減している。基礎教育が医学部でできていない。環境放射線が高いと、癌のリスクがどのくらい上がるのか。医師は科学的根拠に基づいて医師には答えてほしい。
それには広島・長崎の原爆被爆データが参考になる。被ばく後、白血病を発症するが、ピークは3年目で、6-8年続く。固形がんは、10年目から増加する[1.5倍]。白内障、精神発達遅延、甲状腺機能亢進症、心筋梗塞、脳梗塞等も増加する。免疫機能の低下が問題である。1Gyの被ばくで1.5倍のリスクと想定すればよい。幸いなことに、遺伝的影響は認められていない。
チェルノブイリ原発事故データ。
原発勤務者:134名が急性放射線症候群になり28名が死亡した。皮膚障害、白内障が著明。
清掃業務に関わった者が24万人で、白血病、白内障が多かった。
住民の被ばく:50mSvレベルが27万人、10mSvレベルが520万人であった。汚染牛乳による放射線ヨウ素により小児甲状腺がんが6000人発症した。
事故対応の基準は3つに分かれる。
1)事故直後の避難の基準。2)緊急時の状況:20-100mSv/年。3)汚染による基準:1-20mSv/年
日本の被ばく量の平均は3.8mSvで、世界よりも多いのは医療被曝のためである。日本のがんの3%以上が医療被曝に由来するという報告がある。
日常生活と放射線被ばくは、一人当たり2.4mSv/年である。健康に影響が出るのは、100mSvで癌が増える。「閾値なしの直線モデル」(どんな微量でも癌を引き起こすという仮説)で計算すると、現在の日本人のがん死亡は30人/100人であるが、それが30.5人/100人となる。
ゲノムに傷がつくと、修復されるか排除される。この損傷応答が起きないと癌になりやすくなる。低線量の影響を統計的に証明するには限界がある。とは言え、このモデルは実務的で思慮深いモデルである。実際には直線・二次モデルがよい(低線量では2で割って計算する)。同じ線量なら一瞬の方がリスクは高い。
福島での事故後の支援活動について話された後、最後に、放射線障害についての医学部教育の必要性を訴えて講演を終えられた。(山本和利)