『ロボット兵士の戦争』(P・W・シンガー著、NHK出版、2010年)を読んでみた。
著者は『戦争請負会社』『子ども兵の戦争』などを過去に執筆している。本書は649ページの大作である。
世界の産業用ロボットの1/3が日本にあるそうだ。ITの応用分野の一つが軍事・戦争である。戦争から人的被害をなくすために開発された無人システムの発展によって、逆に我々は戦争から人道性を奪っている、と著者は考察している。「戦い方」だけでなく「誰が戦うか」が変わるからである。無人機軍団がイラク駐留の将兵の頭上を旋回し、あらゆる部隊に偵察結果を報告している。ロボットが民間の国境警備の仕事もしている。ロボットが戦争に行く時代に入った。9月11日以後、「ロボットは自爆テロに対するわれわれの答えだ」と米国は嘯いている。しかしながら、「科学技術は、人間の道徳的高潔さを置き去りにし始めている。できるからというだけで、やるべきなのだろうか。」という人の声にも耳を傾けるべきではないのだろうか。
ロボットは3つの主要な構成要素からなる人工装置である。それは「感覚(センサー)」「思考(プロセッサー)」「行動(エフェクター)」である。
戦争用のアイロボットは「われはロボット」の警告を見過ごしている。「ロボットの三原則」というものがある。「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、危険因子を看過することによって人間に危害をもたらしてはならない」というものだ。ロボットが人間の主人になる日が来ては困るのだ。
複雑な問題にはすべて、明確で単純で、そしてまちがった答えがある。バートランド・ラッセルの言葉「世界に思いやりが増えない限り、技術の力はもっぱら、人間が危害を加え合う可能性を増大させる」と本書では引用している。
著者は「フィナグルの法則」を紹介。故障する可能性のあるものは、このうえなく悪いタイミングで故障する。
医療にも参考になる言説がある。私の改変版。「医療から誤診をなくすために開発された高度医療システムの発展によって、逆に我々医療者は患者を疎外し人道性を奪っている。」(山本和利)