札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年7月15日金曜日

1年生 医学史 講義 その9

今日は医学部1年生に医学史の講義を行った。

今日のテーマはEBMとNBMであった。
この概念は、まさに私の研修医の頃から一般に広がり始めた概念であり、特にNBMはNarrativeという言葉の適切な日本語訳もないほどまだまだ日本には根づいていない概念である。これを学生諸君がどうまとめてくるか非常に楽しみであった。


最初の班はサケット(EBM)であった。

サケットは1934年生まれカナダ人で亀田興毅と同じ誕生日らしい。
EBMのパイオニアでそれまでの医療にパラダイム転換を起こした。

EBMの目標は患者さんの利益を追求することで、本当にこの治療法でいいのか?を常に問い続けることである。経験や、権威に惑わされず、良質なエビデンスに基づいて、治療するようにする。ここでいうエビデンスとは質の高い臨床研究から得られた証拠のことである。

エビデンスが得られる質の高い臨床研究として、
1)ランダム化比較試験
2)コホート研究 
3)症例対象研究
を紹介していた。
それぞれの特徴をイラスト入りで紹介していた。

これまでの「経験則」はランク外の評価のようだ。


次にEBMの4つのステップを紹介していた。
1)問題の定式化(PECO)
2)研究デザインを考える
3)批判的吟味
4)患者へ適応
5)1ー4の再評価

このあたりは1年生には難しいかもしれない。
プレゼンは、非常に滑舌よく勢いがあったが、やや早口な感じで、概念を深く理解することは難しかったかもしれない。まぁ、心配しなくても、4年生になったら、半年かけてEBMとNBMの講義がありますから、楽しみにしていてください。

EBMの成果として、CAST Studyを紹介していた。これは、それまで当然のように行われていた心筋梗塞後の抗不整脈薬の予防投与について、本当に死亡率が下がるのかどうかを検証したものであるが、実際は抗不整脈薬の非投与群の死亡率が一番低かったという意外な結果となった研究である。この研究のおかげで、心筋梗塞後の抗不整脈薬の一律投与は行われなくなった。

また、EBMだけでは片付かない問題もあることを紹介し、そういった問題に対する方法として、この次の班のNBMの発表を紹介していた。
次の班への配慮を見せた班ははじめてであった。



予告編を出してもらった、次の班はグリーンハル(NBM)の発表であった。

まったく新しい概念で「物語に基づく医療」と訳されるが、いまいちピンと来ない。現時点では確固たる定義は存在しない。

ナラティブとは

会話(対話) 
好奇心(患者の話に興味を示す)
循環性(患者主語の話に終わらせない)
背景(家族背景など)
共創(共に治療を創っていく)
慎重性(すべての患者についていえるわけではない)

の6つのCを紹介していた。このあたりも原語を適切な日本語訳にするのは非常に難しい。まだまだ日本に定着していない概念なんだなぁと痛感させられる。

患者の語りを通じて患者に全人的にアプローチする医療であると紹介し、閉ざされた質問と開かれた質問の違いを説明していた。患者の「病の語り」を聞くためには、「開かれた質問を行わなければならない」

このあたりのスライドは、以前の班でもあった、イメージを表した写真を多用しており、非常に良い感じである。


その後は
眠れないと訴える患者の診察風景を実演医師と患者役に分かれて実演をしていた。
ビデオで撮影していた班もあったが、その場で実演は新たな展開であった。

また、会話の中身などは別途資料を作り、全員に配っていた。これも、今までの班ではない新しい試みである。これまでの医学史の発表の中では、発表内容をスライドにまとめて、発表するのみで終わっている班ばかりであったが、別途資料を作って配布するという方法は実はプレゼンテーションではよくやる方法である。

しかし、この配布資料というのはスライドをそのまま6枚並べただけのものを配ることが多く、わざわざ配るほどの意味を成さないことがほとんどである。

むしろ、自分の発表の中の最も覚えていてほしいことについてもう一度簡潔にまとめたものや、発表だけでは言い表すことができなかった詳細な資料などをいれて、発表の一助とすることが理想である。

今回の班では、発表だけでは流れてしまう医師と患者の会話の内容を詳しく解説した全く別個の資料を配っていたので、資料を配布するという目的を充分達成したものであったと思う。

プレゼンテーションのコツの授業では特に紹介しなかったが、こうした工夫が自然と自分たちの努力でできてくるところがこの授業のすごいところであろう。


医学史の授業はあと1回だが、最後の班の発表も十分に参考にしてこれからもプレゼンの技術の向上に努めて欲しいものである。

                           (助教 松浦武志)