『ソフィアの夜明け』(カメン・カルフ監督:ブルガリア 2009年)という映画を観た。
東京国際映画祭のコンペティション部門で三冠に輝いたブルガリア映画である。スキンヘッドの17歳の若者が誘われて入れ墨を入れるシーンで始まる。両親と揉めてばかりいるようだ。芸術家を目指しながら木工所で働く青年が映し出される。スキンヘッドの若者とどうやら兄弟らしい。病院通いからしてどうもドラッグ中毒で治療を受けているようだ。ドラッグから逃れても、アルコールに頼る日々を送っている。現代のブルガリアで、社会の中で自分の居場所を見出せない若者たちがたどる運命をリアルなタッチで映し出している。
場面が代わって、ソフィアで一夜を過ごすことにするトルコ人家族。夕食を堪能している。だが、その夜に悪夢に変わる。このスキンヘッドの若者が加わったギャングの暴行を受けたのだ。偶然現場に居合わせた兄は、トルコ人家族を守ろうとして一緒に暴行を受けてしまう。怪我をした父親が病院へ担ぎ込まれ、そこでトルコ人の娘と兄は言葉を交わす。
自分たちと異なる者を暴力で排除しようとする風潮が世界中に蔓延しているのだろうか。
次第に惹かれ合ってゆく2人。その一方で弟と兄はその事件をきっかけに初めて心を通わせる。兄のお蔭で自分が陥っていた狂気と妄想に気付く弟。やがて娘の両親は、娘と救った男性の関係に気付く。だが、トルコ人の父親は民族的な違いを理由に、娘とブルガリア人の交際を認めない。理不尽な決断から、イスタンブールに連れ帰られる娘。
男は再び孤独に向き合うことになるが、絶望はしない。娘を追ってトルコの町に到着したブルガリア人男性の画面で映画は終わる。かすかな希望が見て取れる。
主演の男優は撮影終了目前に不慮の事故で帰らぬ人になったという。実話に近い話を本人が主演したという。不慮の事故がドラッグがらみではないことを祈りたい。「他者への寛容」、「居場所探し」について考えさせる映画である。(山本和利)