7月20日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は16名。大門伸吾医師が司会進行。初期研修医:4名。後期研修医:5名。他:7名。
研修医から振り返り5題。
ある研修医。92歳の男性。ADL低下、発熱、下痢。CHF,CKD,肺結核後遺症、アルツハイマー認知症、5回の入院歴。10日間のショートステイ。38℃の発熱、下痢。立てない。検査でBUN:115, Cre;4.5, CK;482,補液を開始。翌日、BUN:138, Cre;5.2,CK;1794,その後、症状は改善し補液は中止とした。一番の問題は「家族のケア」と思った。トイレがない2階に居住。「ネグレクト」状態であることがわかった。家族の意見がばらばらであった。話し合いを持つため家族をできるだけ集めた。施設に移すことに意見はまとまったが、その間、家でどのように対応するか。居室を1階に移す。食事・飲水の確認、エアコンを入れる。体調不良時に早めにデイケアスタッフに連絡、を提案。
「セルフ・ネグレクト」を調べた。能力がなく自分自身の世話が出来ない者の50%が家族内孤立をしている。本人の性格、心理社会的要因、親族との関係性などが原因として挙げられる。
ある研修医。90歳代男性。胃癌術後。うつと認知症との識別が難しい患者。被害妄想、罪業妄想、心気妄想があったが、SSRIが有効で食欲が出て来た。
「超高齢者に抗鬱剤治療を処方すべきかどうか?」を調べる課題が出された。
ある研修医。90歳代男性。非典型的な急性腹症。電話での内容はイレウス、穿孔の疑い。胃切除後でイレウスを繰り返している。膀胱がんの治療考慮中でもある。採血し、腹部XPでは二ボーなし。右側正中の痛み。CVAにも圧痛。WBC:8700,CRP:3.0であった。血清クレアチニン値が高いので単純CT撮影を依頼。結果は尿管破裂であった。最後は敗血症で死亡された。
クリニカル・パール:「検査閾値を下げて、よくある病気から否定してゆこう」
参加者のコメント:尿管破裂はまれ、超高齢者の急性腹痛にどう対応するか。この患者の場合、最初はイレウス、穿孔をやはり疑うべきである。高齢者は濃縮尿になりにくいから尿路結石にはなりにくい。珍しい病態を間違えても悲観する必要はない。
ある研修医。90代男性。食欲不振、倦怠感。肺結核の既往。左胸水があるが経過観察中。入院加療。左主気管支閉塞、右肺炎、無気肺。気管支鏡をやらないことにした。「生き死に」を誘導していないか、疑問をもった。
参加者コメント:結核ではないのか?胸水のADAは高くなかった。肺外結核の診断は難しい。家族も医師も不確定要素に耐えられない。主治医は家族の決断を支える覚悟が必要。
ある研修医。90歳代女性。直前まで畑仕事をしていた。腹部膨満。橋本病、ITP。皮下出血、紫斑、両側下腿浮腫。蜘蛛状血管腫なし。PLT;1万。T.bil:1.5,抗ミトコンドリア抗体陽性。腹部エコー:肝硬変所見、食道静脈瘤あり。原発性胆汁性肝硬変による腹水貯留と診断。利尿剤治療直後はよかったが、その後体調不良。患者本人は自宅へ帰ることを希望。家族は当初、転院等を拒否したが、最終的に在宅看護することになった。その後、家族に見守られ永眠された。
参加者からコメント:素晴らしい人生ではないか。
ある初期研修医。34歳男性。発熱、頭痛、咽頭痛。抗菌薬、NSAIDで対応したが、軽快しない。肺炎、感冒、尿路感染症を考えた。CRP;1.7,GOT/GPT:45/68,その後、非定型肺炎を考え、ジスロマックを処方した。腹部エコーで脾腫があり、異系リンパ球出現。伝染性単核球症(サイトメガロウイルス)であった。次の一手が浮かばなかった。
参加者からコメント:外傷性の脾臓破裂に注意。
今回は、指導医からこれまで以上に建設的なコメントが出された。次回はより質の高い報告を期待したい。(山本和利)