『かぜの科学 もっとも身近な病の生態』(ジェニファー・アッカーマン著、早川書房、2011年)を読んでみた。
著者はサイエンス・ライター。風邪についてはまだ専門家にも分かっていないことが多い。著者は様々な切り口で風邪の正体に迫ってゆく。風邪の研究を紹介するだけでなく、自ら臨床治験に参加した様子や結果を報告している。この臨床治験に参加したときの製薬会社が提供した至れり尽くせりの状況は医師にとっても参考になろう。風邪は5つの属のウイルスによって起こる。ライノウイルスが50%を占める。これらは鼻腔を好む。インフルエンザウイルスは肺を好む。アデノウイルスは鼻づまりだけでなく、肥満を起こすという。病原体が異なれば好みの環境も異なる。
本書を読むと、風邪の予防には20秒間の手洗いを励行し、顔に触れないことに勝るものはないようだ。マスクはほとんど効果がない。アルコールはウイルスの一部を殺すが、効力が長続きしない。ルイ・パスツールはいう「病原体が問題なのではない。土壌が肝心なのだ。」と。風邪の症状を起こすのは、ウイルスではなく患者の免疫機構であるという考え方を紹介している。
<感受性を減らす行動>
・十分な睡眠をとる
・禁煙する
・ほどほどに運動する
・ほどほどの飲酒(ワイン1杯)
・休暇をとる(ただし働き好きには無効)
・人間関係の輪を広げる
・サプリメントは無効と考える。大量ビタミンCは風邪を予防しない(症状軽減効果あり)。
アデノウイルス14型が殺人伝染病の様相を呈した。これが蔓延しなかったのは毒性が強過ぎたためだ。幼少時の頻繁にかかる軽症ライノウイルス感染が、抗ウイルス手段として効果的な役割を果たしているという研究結果がある。児童の免疫系が十分に微生物にさらされないと、Th1とTh2サイトカインのバランスがとれずアレルギーが起こるということらしい。「何事もバランスが肝心である」
最後の章は「風邪を擁護する」である。私が一番共感した部分である。
・風邪にかかったことにより、休憩することで様々な圧力から自由になれる。
・ライノウイルスにかかるとインフルエンザにかかりにくくなる。
・ウイルスは進化の擁護者である。最近ではウイルスとヒトとが共生関係にあるという専門家も出てきている。
最後に、私が読者に伝えたいこと。
パトリック・バーン教授の言葉。「ひいたかなと思ったら、何もしないこと!」
バーナード・ショーの言葉。「私は病が癒えていく時期を好む。この時期があるからこそ病気もまた悪くないと思えるのだ。」
トーマス・ボールの助言。「風邪のような自然現象を『医療化』してしまうことで、ある治療法が失われるか忘れ去られてしまう」
ある治療法とは何か。
本書には答えは書かれていないが、私の思うに「家族の手当て」であり、「スキンシップ」であろう。皆がこう考えて行動すれば膨大な医療費が浮くだろうに!そして、長らく忘れていた家族との暖かい交流を取り戻すだろうに!(山本和利)