札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年5月19日木曜日

災害時の糖尿病医療

5月19日、札幌市で開催された第54回日本糖尿病会年次学術集会の「災害時の糖尿病医療」というシンポジウムを拝聴した。

新潟沖地震からの教訓を八幡和明先生が報告。土曜日の夕刻発生。入院患者・職員の安全確認。食事をとれない患者の低血糖が発生。救急患者の来院。インスリンのない1型糖尿病は救急対応が必要。生命を守る。糖尿病の治療が可能か。近隣の病院と助け合う。患者さんと繋がること。患者さんのところへ出かける。避難所では普段食べてはいけないと言われた食品しかでない。被災者は日常生活から遮断され、プライバシーがない。心のケアが必要。震災対応マニュアルを作成することを提言。

東日本大震災への大学の対応。東北大学の石垣泰氏。地震発生後、ただちに患者・職員の安全確認をした。まず非常食の配布。県内のインスリン備蓄確認。周辺の調剤薬局の状況把握。糖尿病専門医の情報共有化。インスリン、関連資材の支援。ガソリン不足が深刻であった。学会主導でインスリン相談電話の設置後、243件受信。そのうち最初の4日間に集中していた。被災地医療機関からの200名以上の患者受け入れ。災害医療コーディネーターと連携し、糖尿病巡回チームを派遣した。そこでは無理のある治療法の変更、SMBGのチェック等を行った。避難所における継続的な糖尿病専門診療が必要である。

地域医療の立場から。医師であり元市長の熊坂義裕氏。負傷者が少ない。ほとんど死亡者。38.9mの津波。原爆被災地と似ている。元々医師不足。有志で巡回診療を開始。津波でインスリンを流された人が多い。学会からインスリンが240本届いた。心強い。インスリンが手元にない患者が20km先から受診。ガソリン不足で動けない。仮設住宅の生活が始まる。被災後、糖尿病コントロールが悪化した者が多い。助かってよかった。ご飯が食べられてよかった。避難生活は甘いものを欲しがるようだ。

被災地外からの支援。名古屋医療センター加藤泰久氏。インスリンの輸送手段がない。配布先がわからない。高台にある小学校が活動場所。聴診器、体温計、サチュレーションモニター、血圧計。支援医師の印鑑が威力を発揮。患者のお薬手帳が威力を発揮。支援者は派遣先との連絡ばかりで、現地での従事者の連携調整が不足している。糖尿病診療の需要は大きい。災害時ほど個人情報が重要。電子カルテは使えない。アナログを無視できない。インスリンはライフラインである。インスリン依存患者の居住地区を把握する必要があろう。医療とは人の輪である。

兵庫医大の美内雅之氏。毎日、180名を診察。高齢者が多い。患者情報がない。感冒、高血圧、糖尿病が多い。SU薬を内服している患者が多かった。血糖測定器を持参。液体ブドウ糖が役立つ(水不足)。被災者の食べ物は菓子パン、カップラーメンが主。薬剤不足、小児薬の不足が目立った。

フロアからの発言。亜急性期に内科医師の不足。DMATへ糖尿病専門医の参加を提言。糖尿病、ワーファリン使用者への対応が重要。災害時の初動が大切。患者に災害時の対応を予め教えておくことが大切(予備のインスリン、内服薬の暗記)。他職種の支援者との横の連絡が不足していた。行政は透析、在宅酸素療法患者を災害弱者と認識しているが、糖尿病患者は含まれていない。行政への働きかけが必要。

木曜の午前なのに会場は満杯であり、参加者の関心の大きさを窺わせた。(山本和利)