札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年5月21日土曜日

糖尿病性腎症

5月20日、札幌市で開催された日本糖尿病会の「糖尿病性腎症合同委員会ジョイントシンポジウム」を拝聴した。糖尿病腎症の病態は、輸入細動脈の拡張し糸球体静水圧の上昇し(さらに肥満に脂質異常症があると)糸球体障害を引き起こす。

<食事療法>
聖マリアンナ大学の木村健二郎氏。
・食塩感受性となっている。食塩摂取の制限は6g/日未満。(タンパク尿抑制効果のあるARBを使用する。)
・タンパク質摂取量の制限。重症患者のエビデンスはある。軽度の制限:0.6-0.8g/kg/日を実施すると尿タンパク質が低下し、血清アルブミンが上昇する(RRR:31%,NNT;13である。)
・エネルギー摂取は健常人と同程度でよい。実際には30-35kcal/kg/日。肥満者には25kcal/kg/日も可能である。

<肥満糖尿病性腎症患者の緩解をめざして>
秋田県成人病医療センターの猪股茂樹氏。体重を減らすとタンパク尿が減る。1kg の減量でタンパク尿が110mg減る。有効な抗肥満薬はない。高度肥満者に外科療法を行い50kgくらい減量するとタンパク尿が消失するという報告が多い。肥満者には20-25kcal/kg/日を推奨したい。非肥満者は25-32kcal/kg/日を推奨(活動量も考慮して個別化する必要あり)。

<タンパク質摂取の腎保護作用>
金沢医科大学の古家大寛祐氏。目標は0.3-0.8g/kg/日であるが実際には0.6-1.1g/kg/日である。総死亡+末期腎障害のRRR:73%。通常のタンパク質制限による腎機能の低下速度は変化がない。厳格に0.5g/kg/日にすると有意に遅延を認める。
・参考:低タンパク質食が筋ジストロフィーを改善する(マウスの実験)。

<透析患者の血糖コントロールの指標>
大阪市立大学の稲葉雅章氏。透析患者の90%がエリスロポエチンを使用している。血糖評価についてHbA1cは30%程度過小評価になっている。貧血が進むと見かけ上HbA1cが低く見える。HbA1c値とアルブミン値とは無関係であった。透析患者ではグリコアルブミンの方が血糖値をうまく反映するようだ。動脈硬化(手の石灰化を指標)は透析率、グリコアルブミンとの相関が高い(HbA1cとは相関しない。過小評価されているから)。グリコアルブミンを20%以下にすることが目標である(低すぎると低栄養の可能性がある)。糖尿病透析患者の83%に冠動脈狭窄がある。糖尿病患者は20.4倍心血管イベントを起こしやすい。透析患者では貧血が強いほど生命予後が悪いが、糖尿病患者では貧血による差はない。

<日本糖尿病対策推進会議>
新潟の鈴木芳樹氏。糖尿病腎症合同委員会はガイドラインの作成。臨床研究・試験は大規模臨床試験を。日本糖尿病対策推進会議は教育・啓発を行っている。神経症、網膜症、腎症のポスターは日本医師会のHPから糖尿病学会のHPにリンクしている。患者実態調査を行った(20万例を集めた。平均64歳、95%が2型糖尿病, BMI:24.3, HbA1c;7.1%,神経症は47%であった。)腎症2万例を解析中。

透析患者のHbA1cは度過小評価になっていること、貧血は生命予後の悪化につながること、がわかった。大学の授業があるため最後まで聴講することができなかったが、上記の点くらいを知っているとプライマリケア医として困らないのではなかろうか。(山本和利)