2月20日、札幌市京王プラダホテルにおいて行われた北海道南西部・広域医療連携ネットワーク・フォーラムに参加した。
最初に小樽市病院局長の並木昭義氏の挨拶があり、続いて札幌医科大学の辰巳治之教授から事業概要、基調講演があった。このフォーラムは戦略的防衛医療構想(SDMCI)に基づいているそうだ。NPO法人NORTHが中心に活動している。本フォーラムは函館、室蘭、小樽、札幌地区でネットワークを作ることが目的である。そのために総務省の後援でネットワークプロジェクトを立ち上げた。ITを使って医師の労力を減らしたい(現実はそうなっていない)。函館地区で人のネットワークも作った。それだけではだめなので、究極の代替医療(情報薬)を目指す。
各事業部会の概要報告で、まず遠藤力氏の周産期医療の話。福島県大野事件後、総合病院の産科に患者が集中し妊産婦死亡率は低下した。総合病院の産婦人科の負担が増大している。このままでよいのか。遠隔妊婦検診ネットワークで奥尻と函館の関係を健闘。受診回数を15回から8回に減らすことができた。課題は正確な情報と緊急な対応である。複雑な家族背景を抱える妊婦が多く、対応が難しい。
函館市立病院の下山則彦氏。基幹病院は、得意分野の患者を集めたい。急性期だけ診たい。それには地域における分業が必要である。連携システム(MedIka)として各病院に散らばった情報を見ることができるシステムを構築を目指した。これによって地域連携室の負担が軽減した。経営にも貢献している。課題はマンパワー不足、資金不足、メーカー間の壁である。24時間運用はできない。広域連携ができていない、等の問題もある。
休憩の後、産学連携による地域・遠隔医療への取り組みの中で、山本和利が「地域医療への乗り組みとPCLS」のことを報告した。続いて、はこだて未来大学理事長中島秀之氏が、プロジェクトの報告と医療関連研究を報告。見守りシステムの構築、NTTのヘルスケアシステム、高齢者状態把握システム、等。室蘭工業大学理事長佐藤一彦氏が、「感性工学に基づく地域医療のための工学的基盤技術の創成」について報告。ボーダレスな社会環境、機器やサービスのシームレス化、ユビキタスネットワーク社会を想定して研究している。携帯型在宅型生体計測・医療機器、医療・福祉ロボット、感性サービスエンジン、等。
招待講演は千葉県立東金病院長平山愛山氏の「ITを活用した少子高齢化時代の地域医療のあらたな挑戦」である。疾病構造と人口構造の変化を考えることが重要。これまでは医療提供側からの提案だけであった。これは全体最適の手段であるが、それだけでは不十分である。糖尿病は20年間で3倍増えた。高齢者のインスリン導入が増加している。専門医による診療の破綻しており、非専門医への技術移転をする必要がある。ある地区では6,000人の患者に専門医が3名しかいない。そのため糖尿病性壊疽が全国の5倍である。診療所医師への技術移転、専門医と非専門医との連携の強化、循環型地域連携パスを構築した。そのための三大要素は、1)診療所への紹介基準、2)検査項目のスケジュール表、3)病院への紹介基準、を確立することである。
医療再生は第二ステージへ突入している。すなわち市町村の医療財政は急激に悪化し危機的状況である。この10年間が正念場である。心血管系の合併症が増加する(人工透析も)。糖尿病、高血圧がその基礎にある。喫煙とCOPDとの関係では、喫煙層が増加した15年後に急激にCOPDが増加した。慢性疾患の重症化の予防が重要である。患者のミニマムデータを用いて層別して介入することが肝要である。糖尿病患者には診療連携パス(ミニマムデータセット・HbA1c、eGRR、尿タンパク、LDL-C、頸動脈エコー)とマップ(地域全体患者のトリアージ)を把握する必要がある。そのためには手入力は無理であり、ITを使った検査データの自動入力とアラーム化が必須である。2011年、厚労省は今後、メタボリック症候群予防から方針を変えて、糖尿病患者の重症化予防にシフトすると方針とした。大変科学的で情熱的な講演であった。北海道の地域でもこのような試みをしたいものである。(山本和利)