札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年2月3日木曜日

雑食動物のジレンマ(2)


『雑食動物のジレンマ ある4つの食事の自然史』(マイケル・ポーラン著、東洋経済新報社、2010年)。その2。
第2部は田園の食物連鎖について言及している。ポリフェイス農場を取材した記述が続く。
「この仕事はほとんど動物がやっている」ということだ。草は食物連鎖の基盤である。草にとって、木との縄張り争いと日光を得る競争がある。動物に食べられないようにすること火事に備えるために深い根系と根頭が発達したという。ここで見られるのは工場的農業と正反対である。田園で多年草を複合栽培し、太陽光エネルギーで地域の市場へ、多様化して動物植物の力を借りて地域で作った肥沃性を利用し鶏用肥料で行う。

途中、有機農作物普及の問題点が提示されている。
アルバート・ハワードが提唱した「自然界の仕組みを模倣するというやり方」が当初あったが、工業的有機農場が主となり、スーパーマーケットの要求に出くわしたとき、オーガニック的理想はあまりに厳しく、守られるよりも破られる方が多い。オーガニックな食事は、ふつうの食事と同じくらい化石燃料(加工と輸送のため)をつかってしまう。

草は毎年何千キロもの炭素を空気から取り除いている。牛の餌をなぜ牧草からトウモロコシに代えてしまったのか。牧草よりも早く肉を生産できるし、トウモロコシを栽培するより買った方が安いからである。トウモロコシは巨大な機械の歯車にぴったり噛み合う(安定性、機械化、予測性、互換性、規模の経済)が、牧草はそうではない。

非常にうまくやっている農家を取材したところ、驚くほど生産が高いのである。「自然界では、鳥類はいつも草食動物を追いかける」、「農業とは、大規模な運営には適応しない。それは農業が、生き、育ち、死んでゆく植物や動物にものだからである。」という。
複数の動物や植物を一緒に育てること(積み重ね式)で欠点を補正できる。その単位をホロンと呼ぶ(アーサー・ケストラーの『機械の中の幽霊』から)。林地は水源の涵養と浸食防止に役立ち、農場の水源となる。良質な堆肥作り。「農場の最も素晴らしい資産のひとつは、ほとばしる命の喜びである」
自家処理の問題(家畜の屠殺)。規則で縛って一般の農家では試行しにくい法制度である。毎日、殺すだけの仕事を低賃金の移民労働者に丸投げする仕組みに疑問を投げかけている。
政府の規制が有機栽培物の値段を上げているという。人間の健康に影響する食品が価格だけを基準に売られているのはおかしい(バーコード管理)。旬のものを食べる(何でも一年中食べられるという考えを捨てる)。

第3部は「森林」である。自分自身で狩猟・採集・栽培した食材でつくるディナーへの試みである。人間の雑食性に関する考察が続く。人間の生存のために肉食は必要なくなったが、菜食主義の問題点もある(パーティ等での人間関係の悪化、大切な伝統や習慣からの疎外)。「動物の幸福」を考え始めると迷路に陥る。

食事は「安い、早い、簡単」でいいのかどうかを今、我々は食のあり方を問われている。(山本和利)