札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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2011年2月21日月曜日

患者主体の診断 その12

第6章は身体診察である。終盤である。

いくつかの健康問題を例に考えてみよう。若者の腹痛(1万人データから)を分析すると、外科に紹介になったのは虫垂炎と胆嚢炎のふたつが大部分であった。

尿路感染症では、排尿困難、頻尿、血尿、背部痛、叩打痛、帯下なし、等が大切な症状である。排尿困難+頻尿+帯下なしの3つがそろうとLR+:24.6、患者の自己診断はLR+4.0, LR-0.1(患者に訊け!) 。
・尿路結石 では、腰痛は LR+:27.7, 叩打痛は LR+:3.6, 顕微鏡的血尿は LR+:73.1 であった。
・虫垂炎 では、右下腹部痛:LR+:7.3-8.5、右下腹部圧痛:LR+:7.3であるが、一致率はよくない 。
・胆嚢炎 ではMurphy’s signの再現性はよくない。 胃、膵臓疾患でも起こるからである。
・腹水 では、Fluid wave(6.0), shifting dullness(2.7), peripheral edema(3.8)である。

小児科疾患をみてみよう。
・中耳炎 の40%が診断が不確かである。そのため抗菌薬処方、紹介が増えてしまう。発熱、耳痛、号泣、いらいらの4つがそろうと90%。しかし、中耳炎以外でも72%で起こる 。鼓膜発赤と診断する医師の一致率がよくない。
・脱水 では非特異的所見が多い 。Cappilary re-filling time(4.1), skin turgor(2.5)がLR+高いが、一致率は低い。

頭痛をみてみよう。
・側頭動脈炎では、非特異的所見が多く一致率が低い。 ESR>80/hは LR+:3.2である。患者からの情報が重要(jaw claudication, diplopia, temporal artery findings) である。

胸部疾患をみてみよう。
・肺炎 では、発熱、頻脈、crackle、呼吸音の減弱、喘息なしの5つがそろうとLR+:8.7。
・左心不全:70-84歳 では、息切れはLR+:5.4 、心筋梗塞の既往があればLR+:4.3, 狭心症の既往があればLR+:3.3である。肺底部に Cracklesを聴取すると LR+:2.4。
IHDの既往、心尖拍動、HR>90/m, BNP上昇がそろうとLR+:5.6 。

肺塞栓症 では、胸膜痛、血痰、呼吸困難をチェック する。患者の11%が胸膜痛を訴え、胸膜摩擦音を聴取 する。患者の7%に発熱 を認める。癌の既往があるとLR+:4.1、下肢の痛み・腫脹がるとLR+:2.6 、頻脈があるとLR+:2.5 、脈拍が90/mであればLR+:0.3である。肺塞栓症は致命的な疾患なので治療域値は低くすべきである。(山本和利)