第6章は身体診察である。
医療面接後、身体診察に移る。症状と病歴と身体診察を統合する。発熱等、患者の訴えは信頼に足る(LR+:4.9)。医師が患者の額に手を当てて体温を推測する(LR+:2.5)より尤度比は高い。患者の関心事を理解することも重要である。「平均への回帰」という統計学的現象を理解する必要がある(たまたま異常値であっても正常であれば次回の測定では平均に近づく)。家族、友人の報告も重要なときがある。
身体所見の再現性や妥当性が重要。(しっかり聴診をしていないため)呼吸器専門医が気づいていない肺の胸膜摩擦音を、著者自身が聴取した経験を通じて、最近、多くの医師が身体診察をやめてしまったように見えると嘆いている。黄疸があり胆嚢が触れる患者の肝外閉塞のLR+は26.0,肝内閉塞の LR+は0.04である。(胆嚢が触れなければ肝内閉塞の可能性が高い)。
70cmほど離れて3つの言葉を囁いて、半分以上できなければ聴覚障害がある( LR+:6.0),聞き取れると( LR:0.03) 。
背部痛がなければ急性胆のう炎の確率は1/2になる。
尤度比を計算で求める際、所見同士が独立しているかどうかを考慮することが大切である。できれば切れ味のよい1所見がよい
・腹水の検出
Shifting dullness (LR+:2.3)
Positive fluid wave (LR+;5.0)
・肺炎
呼吸音の減弱(LR+:2.3)
発熱 (LR+:2.0)
どんなに切れ味がよい身体所見であっても、再現性がよくなければ臨床では使えない。すなわち、評価者が異なっても所見が一致しなければ意味がない、ということである。心音所見については、専門医間の一致率は高いが、PC医ではその保証はない。不一致が起こる理由として、道具が悪い、環境がよくない、訓練が足りない、などが考えられる。
・末梢動脈が触知の有無は一致率が高いが、正常か減弱かの判断の一致率は低い
・片目が赤い場合に、結膜炎と重大な病気の識別が大切である。15cm離して2秒間ペンライトの光を当てたとき、患者が不快ならLR+:4.2, 不快なしならLR;0.2である。
・血圧は両手で測るのがよい。10mmHg差があることもあるから。(山本和利)