患者主体の診断学における病歴(Past Medical History)その3
健康に関する行動
健康に対する行動を把握する為には患者主体の診断学においては重要。
喫煙、性行動、アルコールは症状、疾患との関連性が深い。残念ながら患者は社会的受け入れられる行動については過大に報告するのだが、逆に喫煙などの行動についてはあまり語りたがらない。
子供の喘息の患者が受診したときは必ず親の喫煙について聞くことにしている。子供の服にタバコのにおいがするときは、外でタバコを吸うように強く指導している.しかし現実は冬の寒い日などでは実行されていないようだ。
アルコール依存
アルコール依存より喫煙者を見つけることは容易であるとの印象がある。不幸にも自分だけではなく、アメリカの家庭医の推定によるとはアルコール依存症は19%の診断率であった。オーストラリアでは28%以下、フランスでは16%にとどまっていて、特に女性は5%のみの診断率である。様々な身体症状を来すためアルコール依存を見抜く指標が重要である。女性では週14単位,男性では21単位が診断指標となる。
あ食飲酒日記と比較すると問診での酒量は過小申告となっている研究報告がある。したがって問診では最初、最後で聞くよりも中間で聞くなどの工夫が必要である。患者は週単位での酒量よりも日単位での酒量を気にしているが、このような酒量の枠組みは重要である。
アルコール依存の診断には、採血によるMCV,γGTPと同様にCAGE法などの手法も現実的である。専門的教科書では採血などを重視し、患者主体の診断がおろそかにされている傾向がある。
異性、配偶者、子供連れの患者に性行動を聞き出すことはさらに困難である。その為にはスキルが必要である。
わかりやすい言葉を用いてopen-endedで質問をし,長時間のインタビュー形式は避けることを提唱している。
例としては「たまに飲み過ぎると体に悪いですよね」「去年1年ではどうでしたか?」などである。
正確な質問が有効であると考えられているが、少しひっかけた (bogus testing)質問も一つの方法ではあり、喫煙、アルコール、薬物利用などを引き出すのに有効である。
遺伝子的要因
プライマリケア医は他の専門医との違いは全人的に包括的なケアを行うところにある。
家庭医は家族を1単位としてケアし、家族ケアを扱っている。また遺伝的因子が健康の重要な因子となっていることがわかってきた。大腸がん、乳がん,子宮がん、卵巣がんがその例である。しかし生活様式や健康感なども家族の健康に影響を与えるため一筋縄ではいかない。
頭痛も遺伝子的要因もあるが、社会、心理や環境的側面も関係があり、多因子が影響を与える。喘息、骨粗鬆症、統合失調症の兄弟がいる場合の相対リスクは2.6、3.0、8.6である。
患者主体の診断学における家族歴
家族歴聴取の研究から、1997年イギリスでのGPは平均29%の割合で家族歴を聴取していた。
GPは診断にあたって家族歴は診断において多くの情報を与えてくれると感じている。自分自身も喘息、片頭痛において家族歴は重要だと思っている。しかし家族歴について妥当性(validity)と信頼性(reliability)の確認は必要である。
表に乳がんの家族歴をまとめた。一親等での家族歴は高い信頼性がある。年齢も重要な因子である。
この点において情報提供書を作成する際において家族歴は注意を払わなければならないとの報告がある。
家族歴の有効なアセスメント法
プライマリ領域では家族歴聴取は30分をかけて、総括的なアセスメントをすべきであり以下の手法も有効である。
(1)家族状況を持ち帰って自己記入出来る問診用紙を用意する
(2)電子化した家族図を用いる
(3)特別な状況では家族外来を設定する
家族歴をどのように予測するのか?
片頭痛診断歴のない、感染の証拠もない“sinus headache”の88%が片頭痛型熱発、膿性分泌物のない反復性頭痛の病歴患者では、前頭洞部分の症状の存在は片頭痛のプロセスである。(Arch Intern Med. 2004) 5.3%の頭痛患者は片頭痛であるとの報告がある。
Smetanaは、片頭痛の症状について陽性、陰性尤度比を報告した。
たとえば片側(LR+3.1)吐き気(LR+23.2)であるから計算結果はLR+71.9%となり、結果80%の事後確率となる(寺田豊)