札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年3月10日木曜日

外来感染症診療

3月9日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は勤医協中央病院総合診療部の川口篤也先生である。趣味はバンド活動。テーマは「外来感染症診療」で,参加者は18名である。

まずは質問から。問題を提示して、研修医や学生に訊いてゆく形式である。

風邪に抗菌薬は必要か?「原因はウイルスなので不必要」
風邪の診療は簡単か? 楽しいか?「楽しめない」「本当に風邪か」
そもそも風邪とは?「上気道の急性カタル性炎症性疾患の総称」(カタルとは、鼻閉、鼻汁、咳、咽頭痛などの症状)80-90%がウイルス性。風邪とは、患者自身が「風邪だと思う」と言って受診する症候群である。それゆえスペクトラムが広い。狭義の風邪には抗菌薬は必要ないが、風邪症候群には抗菌薬を処方する場合も不要な場合もある。風邪疾患における医師の存在意義は、他疾患の鑑別・除外である。
「風邪診療は新しい出会いの始まりである」という側面もあり、予防医学的な介入を現実的な範囲で行える。
鑑別疾患を考えてみよう。

症例1.3月9日、30歳男性。発熱、倦怠感。インフルエンザを心配。38.5℃。咽頭痛、咳。PR;100/m、SaO2;97%, 警部リンパ節腫大なし。インフルエンザ迅速検査:陽性であった。
「インフルエンザ様疾患」;悪寒(LR;2.6)、高熱(LR;5.4)、筋肉痛、倦怠感、頭痛)、冬はライノウイルスが多い。くしゃみがあると否定的(LR;0.47)

症例2.30歳女性。発熱、咽頭痛、咳がないと。CVA圧痛あり。
「尿路感染」であった。気道症状のない発熱に安易に風邪と言ってはいけない。

症例3.30歳男性。発熱、膿性鼻汁、頭痛。頭の前の方が痛む。下を向くと痛みが悪化。随膜刺激症状なし。
「急性副鼻腔炎」:二相性の症状。後から頭痛。片側性の叩打痛。Waters撮影。CTをTorと風邪患者の87%に異常あり。最初から抗菌薬を使う必要はない。起炎菌:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ。ペニシリン内服。中耳炎も同じ考え方。小児は耐性菌が多い。

症例4.発熱、咳、呼吸苦。下肺野に吸気時crackle聴取。
「肺炎」。Heckerlig score:喘息がない、37.8℃以上、HR>100/m, 呼吸音減弱、crackle,の5項目を評価する。重症度は、意志障害、呼吸数>30/m、収縮期血圧<90mmHg、脱水、年齢(65歳)で判断する(CURB-65)。市中肺炎には、はじめからキノロンは使わない。ペニシリン、アジスロマイシンをお勧めする。なぜなら、キノロンは結核にも効くので、診断が不明確になる。緑膿菌に効く唯一の経口薬だから、温存したい。

症例5.発熱、咽頭痛。両側扁桃腺腫大、白苔あり。頚部リンパ節が腫大。
「急性咽頭炎」伝染性単核球証。咽後膿瘍、扁桃周囲脳炎、急性喉頭蓋炎、Lemierre症候群,ジフテリア。ウイルス性が多い。
Center Score;38℃以上、警部リンパ節腫脹、扁桃浸出物、咳がない、15歳以上は1点、45歳以上はー1点。2点以上で迅速溶連菌検査を。溶連菌患者に濃厚接触した場合は、治療を。

講師の川口先生から次のようなフィードバックをいただいた。「今回は学生から研修医1年目でもわかるようにという観点で作成しましたが、医師の方にとっては物足りない内容だったと思います。学生にとって難しい内容でも最初から後期研修医向けと話していれば、それは了解可能な範囲となり、それでも参加すると面白いことがあると思って学生さんが参加してくれれば嬉しいですね。個人的にはターゲットについては初期・後期研修医向けとするのが妥当と感じます。」

今後はターゲットを明確にして開催してゆきたい。来年度の企画は小児科疾患と整形外科疾患を予定しているが、今回、整形外科疾患企画予定者の徳洲会病院の森先生がわざわざ参加してくださった。来年度もお楽しみに!(山本和利)