第8章は研究である。後半。プライマリケア領域で使われる研究デザインは、ケース・コントロール研究と横断研究である。
<ケース・コントロール研究>
速い、安い、後ろ向き研究
癌などのまれな疾患に適する
交絡因子を調整する
患者志向というより疾患志向である。
横断研究に比較して、ケースコントロール研究は予測妥当性を過大に評価している。
入院患者が中心であった。
有病率が高めとなる。
一致率が低い
新しい臨床情報を組み込めない
<横断研究>
この研究手法はこれまでの至適基準に対して臨床事項を比較検討するものである。
「新規発症の動悸患者」研究を例にとって説明したい。これは一般医の設定で情報を収集した。62名の医師が36診療所で9ヶ月間にわたり新規の動悸患者を集めた。「病院不安うつスケール」をすべて満たすよう問診が行われた。それぞれの患者に心臓のイヴェントを記録する「リズムカード」が渡され、2週間、動悸を感じたときに記録するように指導した。残念ながらこの手法は、選択バイアスが問題となる
2000人を診ている医師の場合、動悸を訴える新規の患者は年間6名程度予想される。62名の医師として単純に計算すると279名となるはずだが、実際には139名の党則であった。訴えの強い患者や紹介した患者だけを登録したのかもしれない。合併症を持つ患者が除かれるため、現実の現場と少し設定がずれているかもしれない。変化を研究する手法である。
至適基準について。注意深い観察でよいことにする場合もある。急性ではない腹痛研究で、後に重篤な疾患であることを予測するのにもっとも役立つのは症候と所見であった。早期がんの患者は腹痛だけのときより、腹痛と肛門出血があるときに発見される。
PC医の関わりとしては、症状から事前確率を設定することにある。まず、病歴から可能性を想定し、それに身体診察所見から可能性を修正し、さらに検査から最終的な可能性を設定する。EBMを学んでいる人がこの手法を用いる傾向がある。
臨床情報を実践に活かすには、
1.この診断の仕方はこれまでのものより優れているか?
2.この診断のプロセスはこれまでのものより優れているか?
3.全体を通じて現在のものより優れているか?
4.さらに侵襲的な検査をすることで、何か得るものがあるか?
をチェックする。
患者にとっては、費用効果性よりも、現実的に受け入れやすく、便利なことの方を重視する。急性足首捻挫研究を紹介。750施設で5ヶ月間、踵骨折の臨床情報を調査した。「踵付近の痛み」「55歳以上」「後方からの骨の圧痛があること」「診察時に加重をかけられない」が踵骨折の予測に有意に貢献することがわかった。これをOttawa ankle rulesというようになった。これによって、XP撮影数, 待ち時間、経費が低下した。
患者主体診断研究の優先事項
疾患
明確な定義
臨床的な意味:有病率、重篤度
診断に問題を含み、よりよい診断法があるか
情報を改善することで診断過程が改善するか
臨床情報
PC医が使えるか:病歴、身体診察
信頼性
患者に安全で受けいれやすい
妥当性・再現性のある指摘基準
診断のインパクト
有効な治療があり、診断法を改善することで治療率が改善し、治療の開始がはやまる
早期に介入が可能となり、死亡率が低下する
診断法を改善することで病気や検査による合併症が低下する
である。(山本和利)