『いねむり先生』(伊集院 静著、集英社、2011年)を読んでみた。
著者は27歳の若さで急性骨髄性白血病のため死去した夏目雅子の配偶者。代表作に山口県防府市を舞台とした自伝性の強い『海峡』三部作などがある。弟の死や新婚早々の妻の死によって、アルコール依存症、精神不穏状態となった著者が、「いねむり先生」に出会って、絶望から再生へと向かう話である。
「いねむり先生」(ナルコレプシーの兆候)の名前は本文には出てこないが言わずと知れた阿佐田徹也・色川武大である。競輪やマージャン、飲み屋、旅館等の場で、「いねむり先生」と一緒にいるうちに著者の気持ちが少しずつ癒されてゆく。(ミュージシャンIとして井上陽水もでてきて、著者の相談役になっている)
勝手に「いねむり先生」を師と仰いで、接する著者の姿が清々しい。
私も阿佐田徹也の本は20冊以上学生時代から読んでいた。氏の「欲張りすぎず、今の地位で九勝六敗を狙う」という哲学に共感してきた(「幸運が続きすぎると危ない」という考えで、自分の人生の本質と離れたところで「あえて不運をつくる」とした。)。
本書を読むと、人が癒されるにはかけがえのない人とそれなりの時間が必要であることがわかる。(山本和利)